債権回収
貸倒損失と債権回収費用、どちらが得?税務と回収の視点
貸倒損失と債権回収費用、どちらを選ぶべき?税務と回収成功率の観点から徹底比較。未払い金で悩む経営者の疑問を解消し、費用対効果の高い最適な選択肢を見つけるための決定版ガイドです。

序章:未払い金問題に直面した時、あなたの会社が取るべき「賢い選択」とは?

ビジネスを続けていれば、残念ながら避けて通れないのが未払い金(債権)の問題です。
このような時、経営者や経理担当者の頭をよぎるのは、大きく分けて二つの選択肢です。
- 「もう回収は無理だろう…貸倒損失として諦めるしかないか?」
- 「いや、諦めるわけにはいかない。専門家に頼んででも債権回収費用をかけて回収を目指すべきか?」
この二つの選択は、単に「お金を回収するか、諦めるか」だけの問題ではありません。そこには、税務上の大きな影響や、企業の資金繰り、そして将来の経営戦略にまで関わる、非常に重要な判断が伴います。
「損失として計上すれば税金が安くなるの?」 「回収に費用をかけるなら、どれくらいまでなら許容できる?」 「結局、どっちが会社にとって得なんだろう?」
あなたの会社の正当な利益を守り、賢い選択をするために、今こそこの情報を活用しましょう。

第1章:貸倒損失の基礎知識:未回収を諦める選択とその税務上のメリット・デメリット

まずは、この貸倒損失がどのようなものか、そのメリットとデメリットを理解しましょう。
1-1. 貸倒損失とは何か?

貸倒損失とは、売掛金や貸付金などの債権が、取引先の倒産や長期的な支払い不能などによって、回収不能になったと認められる場合に、その債権の額を損失として計上することを指します。
簡単に言えば、「もうこのお金は返ってこない」と判断し、会計上、その金額を会社の費用(損失)として計上する処理です。
貸倒損失は、大きく以下の3つのパターンに分けられます。
- 法律上の貸倒れ:
- 会社更生法、民事再生法、破産法などの法律に基づく手続き(倒産手続き)により、債務者が債務免除を受けた場合や、配当が確定した場合など、債権の全額または一部が回収不能になったことが法的に確定した場合に計上します。
- 例: 債務者が破産手続きを開始し、配当ゼロが確定した。
- 事実上の貸倒れ:
- 債務者の財産状況、支払い能力などから、債権の全額が回収できないことが明らかになった場合。債務者に弁済能力がなく、再建の見込みもないと判断される場合などが該当します。
- 税務上は、書面による督促をしても回収できず、その後の回収見込みがないことを客観的に証明できる必要があります。
- 例: 債務者が夜逃げして行方不明になり、財産もないことが判明した。
- 形式上の貸倒れ:
- 債務者との取引停止後、1年以上経過しても弁済がなく、特定の要件(売掛債権の場合、回収を諦める旨を通知するなど)を満たした場合に、その債権の額を貸倒損失として計上できます。少額の債権で、回収の手間をかけたくない場合に利用されることがあります。
- 例: 小口の売掛金が1年以上未回収で、何度も督促したが連絡がつかず、債権放棄通知を送付した。
1-2. 貸倒損失を計上するメリット

- 法人税の節税効果:
- 貸倒損失は、企業の損金(費用)として扱われます。損金が増えれば、その分だけ課税所得が減少し、結果として法人税の負担を軽減できます。
- 例: 100万円の貸倒損失を計上し、法人税率が20%であれば、約20万円の税金が節約できる計算になります(実際には他の費用や所得との兼ね合いで変動します)。
- これは、未回収金を「損失」として確定させ、その損失分を税務上のメリットとして享受するという考え方です。
- 会計処理の明確化:
- 回収不能な債権を貸倒損失として処理することで、企業の会計状況がより正確に反映されます。不良債権をバランスシートから消し、健全な財務状況を示すことができます。
- 資金繰りの実態と帳簿上の数字が一致し、経営判断がしやすくなります。
- 回収にかかる時間と労力の削減:
- 回収を諦めることで、未払い金にまつわる督促や交渉、法的手続きにかかる時間や人件費などの**回収コスト(機会費用も含む)**を削減できます。
- 回収業務から解放され、本業に集中できるようになります。
1-3. 貸倒損失を計上するデメリット

- 資金の損失:
- 当然ながら、債権自体は回収できないため、その分の資金は会社から永久に失われます。節税効果はあっても、失った資金が全額戻ってくるわけではありません。
- 例えば、100万円の貸倒損失を計上して20万円の税金が安くなっても、残りの80万円は会社の損失となります。
- 計上要件の厳格さ:
- 税務上、安易に貸倒損失として計上することはできません。税法で定められた厳格な要件を満たす必要があり、満たさない場合は損金として認められず、税務調査で指摘を受けるリスクがあります。
- 特に「事実上の貸倒れ」の要件は複雑で、客観的な証拠や判断基準が求められます。
- 資産の目減り:
- 貸倒損失の計上は、会社の売上債権という資産が減少することを意味します。これは、会計上、企業の資産規模が縮小することを意味します。
- 回収可能性の放棄:
- 一度貸倒損失として計上すると、その後、債務者の状況が好転しても、改めて回収に動くインセンティブが失われます。また、債務者側も「諦めてくれた」と認識し、支払う意思を完全に失う可能性があります。

第2章:債権回収費用の基礎知識:回収を目指す選択とそのコスト

次に、未回収の債権を「回収する」という選択をした場合にかかる債権回収費用について理解しましょう。
2-1. 債権回収費用とは何か?

債権回収費用とは、未払い金を回収するために発生する、あらゆるコストの総称です。これは、自社で回収業務を行う場合の人件費や通信費、郵送費だけでなく、専門家(弁護士、司法書士、債権回収会社など)に依頼した場合の費用も含まれます。
2-2. 債権回収費用の主な内訳

- 自社での回収費用:
- 人件費: 回収業務を担当する社員の時間コスト。督促電話、メール作成、書類整理、交渉、訪問などにかかる労働時間。
- 通信費: 電話代、FAX代、インターネット通信費。
- 郵送費: 請求書再送付、督促状、内容証明郵便などの郵送費用。
- 交通費: 債務者への訪問にかかる交通費。
- 印紙代: 債務承認弁済契約書などを締結する際の印紙代。
- 専門家への依頼費用:
- 相談料: 弁護士や司法書士への初回相談費用(無料の場合もある)。
- 着手金: 専門家が案件に着手する際に、回収の成否にかかわらず発生する費用。未収金額に応じて変動し、数万円〜数十万円(未収金額の数%程度)が目安。
- 報酬金: 実際に債権回収に成功した場合に発生する費用。回収金額に応じて変動し、回収額の10%〜20%程度が目安。
- 実費: 内容証明郵便代、裁判所の印紙代、予納郵券代、交通費、書類取得費用など。
- 成功報酬型: 着手金が低く抑えられ、回収額に応じて報酬を支払う形式。回収できない場合は費用負担が少ない。
- 固定報酬型: 一定の回収業務に対し、固定の報酬を支払う形式。小口の債権や簡易な手続きに向く。
2-3. 債権回収費用を支払うメリット

- 資金の回収:
- 最も直接的なメリットは、貸し倒れることなく、失われかけた資金を会社に取り戻せることです。これは、企業のキャッシュフローを改善し、資金繰りを安定させる上で非常に重要です。
- 回収できた金額は、そのまま事業資金として再投資できます。
- 企業の信頼維持と教訓:
- 未払いを放置しないという毅然とした姿勢は、他の取引先への見せしめにもなり、企業の信頼性を高めます。
- 回収プロセスを通じて、与信管理や契約内容の改善点が見つかり、将来の未払い発生リスクを低減する貴重な教訓となります。
- 税務上の損金算入:
- 債権回収のために支出した費用(弁護士費用、裁判費用、郵送費など)は、原則として全額を損金(費用)として計上できます。これにより、貸倒損失と同様に法人税の負担を軽減する効果があります。
- 例: 債権100万円を回収するために弁護士費用が20万円かかった場合、この20万円は損金になります。結果的に100万円が回収でき、20万円の費用が損金となるため、80万円分の資産増加と、20万円分の損金による節税効果が得られます。
2-4. 債権回収費用を支払うデメリット

- 費用倒れのリスク:
- 回収できた金額よりも、回収にかかった費用の方が高くなってしまう「費用倒れ」のリスクがあります。特に未収金額が小額の場合や、債務者の財産状況が不明な場合は、このリスクが高まります。
- 例: 10万円の債権を回収するために、弁護士着手金が15万円かかった場合、回収できたとしても5万円の赤字になります。
- 時間と労力:
- 自社で回収を行う場合は、担当者の時間と労力が本業から割かれることになります。専門家に依頼した場合も、連絡や書類準備などでゼロになるわけではありません。
- 法的手続きは時間がかかることが多く、長期化するリスクがあります。
- 債務者との関係性悪化:
- 強制的な回収手段を用いることで、債務者との関係性が完全に断絶することがほとんどです。今後の取引継続は難しくなります。

第3章:徹底比較!貸倒損失 vs 債権回収費用 – どちらが得か?

ここまで、貸倒損失と債権回収費用のそれぞれのメリット・デメリットを見てきました。
それでは、結局どちらが会社にとって「得」なのでしょうか?これは、未収金の金額、債務者の状況、そして会社の経営方針によって判断が異なります。
3-1. 判断の基準となる要素

以下の要素を総合的に考慮して、最適な選択を下しましょう。
- 未収金の金額:
- 少額の場合(数万円〜数十万円程度): 債権回収費用が回収額を上回る「費用倒れ」のリスクが高いため、貸倒損失として処理することも現実的な選択肢となります。ただし、少額訴訟や支払督促など、費用を抑えた法的手段もあります。
- 高額の場合(数百万円以上): 貸倒損失として諦めることによる資金損失が大きい。回収費用をかけてでも、専門家に依頼して回収を目指すべきケースが多いです。
- 債務者の支払い能力と支払い意思:
- 支払い能力がある、または好転の見込みがある: 回収費用をかけてでも回収を目指すべきです。
- 支払い能力がない(倒産寸前、自己破産申請など): 回収が極めて困難なため、早めに貸倒損失として処理することも検討します。
- 支払い意思がない(連絡無視、不当なクレームなど): 自力回収は困難。専門家に依頼し、法的手段も視野に入れる必要があります。費用はかかりますが、放置すれば回収は不可能に。
- 回収にかかる時間と労力(機会費用):
- 自社の人員が回収業務に割かれ、本業がおろそかになる場合は、その機会損失も考慮すべきです。回収業務にかかる時間や人件費を金額換算し、回収費用と比較してみましょう。
- 税務上の影響(節税効果):
- 貸倒損失、債権回収費用ともに損金算入による節税効果があります。
- 貸倒損失: 収入そのものがなくなるので、税金は減るが、手元の資金も減る。
- 債権回収費用: 費用はかかるが、債権が回収できれば手元の資金が増える。
- 「損して得取れ」という言葉がありますが、貸倒損失はまさに「損」です。税金が安くなっても、失ったお金は戻ってきません。 回収費用は「投資」であり、回収できれば費用以上に資金が増えます。
- 企業の経営方針とキャッシュフローの状況:
- キャッシュフローに余裕がある企業であれば、回収に時間や費用をかける余裕もあります。
- 資金繰りが厳しい企業であれば、多少の費用がかかっても、とにかく資金を回収することを優先すべきです。
- 今後の取引関係を維持したいか、それとも完全に清算したいかによっても対応が変わります。
3-2. 具体的な判断シミュレーション

以下に、いくつかのケーススタディを挙げて、どちらの選択が有利になるかをシミュレーションしてみましょう。
ケース1:小口債権(10万円)、債務者不明・連絡不通

- 貸倒損失の場合:
- 10万円を損失計上。法人税率20%なら2万円の節税。実質8万円の損失。
- 回収の手間はかからない。
- 債権回収費用をかける場合:
- 弁護士着手金5万円+報酬1万円+実費数千円=約6万円の費用。
- 回収成功すれば10万円回収できるが、費用を差し引くと4万円の利益。
- 回収できなければ6万円の費用だけが発生。
ケース2:中規模債権(100万円)、債務者から不当なクレームで支払い拒否

- 貸倒損失の場合:
- 100万円を損失計上。法人税率20%なら20万円の節税。実質80万円の損失。
- 不当なクレームから解放される。
- 債権回収費用をかける場合:
- 弁護士着手金10万円+報酬10〜20万円+実費数万円=約20〜30万円の費用。
- 回収成功すれば100万円回収。費用を差し引いても70〜80万円の利益。
- 不当なクレームへの対応も弁護士に任せられる。
ケース3:高額債権(500万円)、債務者の資金繰り悪化が判明

- 貸倒損失の場合:
- 500万円を損失計上。法人税率20%なら100万円の節税。実質400万円の損失。
- 債権回収費用をかける場合:
- 弁護士着手金30万円+報酬50〜100万円+実費数万円=約80〜130万円の費用。
- 回収成功すれば500万円回収。費用を差し引いても370〜420万円の利益。
- 債務者の資金繰り悪化状況を弁護士が詳しく調査し、債権回収の優先順位を確保できる可能性も。
3-3. 会計処理と税務処理のタイミング

貸倒損失として計上する場合、その要件は税法で厳格に定められており、満たさない場合は損金として認められません。また、貸倒損失は原則として、その事実が発生した事業年度に計上する必要があります。
一方、債権回収費用は、実際に支出した事業年度の損金として計上できます。

結論:未払い金は放置せず、最適な手段で今すぐ債権回収しましょう!

一方、債権回収費用をかけてでも回収を目指すことは、費用倒れのリスクを伴いますが、成功すれば失われかけた資金を取り戻し、会社のキャッシュフローを改善させることができます。回収費用は損金として計上できるため、税務上のメリットも享受できます。
最終的にどちらが得かは、未収金の金額、債務者の状況、そして回収にかかる費用と時間、さらに企業の財務状況や経営戦略によって異なります。しかし、共通して言えるのは、「未払い金は放置すればするほど回収が困難になる」という事実です。
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