債権回収
訴訟で未払金・売掛金を回収する?注意点や他の回収方法も解説
未払い金・売掛金回収の最終手段「訴訟」の全貌を解説。メリット・デメリット、費用、期間、他の回収方法との比較まで網羅。訴訟以外の選択肢も含め、あなたの会社の資金を確実に守るための実践ガイドです。

序章:回収の最終手段「訴訟」を理解し、会社の資金を守る

ビジネスを運営する上で、商品やサービスを提供したにもかかわらず、その代金が支払われない未払金や売掛金の問題は、企業の資金繰りに直接的な影響を与え、経営を圧迫する深刻な課題です。
「訴訟は最後の手段で、ハードルが高い…」 「費用や時間が膨大にかかるのでは?」 「他に有効な回収方法はないのだろうか?」
多くの経営者や経理担当者が、訴訟という言葉を聞くと、このように身構えてしまうかもしれません。
確かに訴訟は、時間も費用もかかる可能性のある手段ですが、適切に活用すれば、国家の強制力をもって未払金を回収するための、最も確実な方法となり得ます。また、訴訟以外にも、未払金の状況に応じた様々な回収方法が存在します。
さらに、訴訟に至る前の自力での回収方法や、訴訟以外の法的手段についても網羅的に紹介することで、あなたの会社の資金を確実に守るための最適な戦略を提示します。
もう未払金に悩む必要はありません。
このガイドを読み終える頃には、あなたは自信を持って未払い問題に対処し、会社の正当な売上と未来を守るための知識と戦略を身につけているでしょう。

第1章:未払金・売掛金回収の基本と訴訟を検討するタイミング

1-1. 未払金・売掛金とは何か?なぜ回収が重要なのか?

これらは企業会計上「資産」に計上されますが、実際に現金が手元に入ってこなければ、企業のキャッシュフローは悪化し、以下のリスクを招きます。
- 資金繰りの悪化: 売上があっても現金がなければ、仕入れ、人件費、家賃などの支払いが滞り、最悪の場合、黒字倒産に追い込まれる可能性があります。
- 貸倒損失の発生: 回収不能となった未払金は貸倒損失として処理され、企業の利益を直接圧迫します。税務上の損金処理は可能ですが、失われた現金は戻りません。
- 回収率の低下: 債権回収は「時間との勝負」です。時間が経つほど、債務者の支払い能力が低下したり、連絡が取れなくなったり、時効が迫ったりするなど、回収が困難になります。
1-2. 訴訟を検討するタイミングと判断基準

訴訟は強力な手段である一方で、時間と費用がかかります。
そのため、闇雲に訴訟に踏み切るのではなく、適切なタイミングと判断基準を持つことが重要です。
表:訴訟を検討すべき主な判断基準
判断基準項目 | 具体的な状況 |
自力回収の限界 | 電話、メール、内容証明郵便など、あらゆる自力での督促に反応がない。 |
支払い意思の欠如 | 債務者が理由なく支払いを拒否する、連絡を完全に無視する、不当なクレームを繰り返す。 |
支払い能力の把握 | 債務者に、預貯金、不動産、売掛金、給与などの差し押さえ可能な財産があると判明している。 |
未払金額の大きさ | 未払金額が高額で、回収費用をかけても十分に回収のメリットがあると判断できる。 |
証拠の確実性 | 契約書、請求書、納品書、メール履歴など、債権の存在と金額を客観的に証明できる証拠が揃っている。 |
時効の到来 | 債権の時効が迫っており(原則5年)、時効完成を阻止するために法的手続きが必要な場合。 |
示談交渉の不調 | 示談交渉に応じるが、不合理な条件を提示したり、約束を反故にしたりする場合。 |
企業の姿勢 | 未払いを許容しない毅然とした姿勢を、社内外に示す必要がある場合。 |

1-3. 訴訟に踏み切る前の「証拠」の準備と時効の確認

訴訟において、あなたの主張が法的に認められるためには、客観的な証拠が不可欠です。
以下の証拠は、訴訟を提起する前に必ず整理・準備しておきましょう。
また、債権の時効も重要な確認事項です。
原則として支払期日から5年(改正民法)。 時効期間が迫っている場合、時効完成を阻止するために、内容証明郵便による催告(6ヶ月間の時効完成猶予効果)や、裁判上の請求(訴訟の提起、支払督促の申立てなど)を行う必要があります。
第2章:訴訟による回収方法の具体的な種類と特徴

「訴訟」と一口に言っても、未払金額や債務者の状況に応じて、いくつかの種類があります。
ここでは、主要な訴訟関連の法的手段について解説します。
2-1. 方法1:少額訴訟(60万円以下の金銭債権)

- メリット:
- 迅速性: 審理が原則1回で完了するため、短期間(数週間〜2ヶ月程度)で判決が得られる可能性があります。
- 費用が安い: 訴訟費用(印紙代)が通常の訴訟に比べて低額です。
- 手続きの簡便さ: 専門知識がなくても、比較的自分自身で手続きを進めやすいよう配慮されています。
- デメリット:
- 金額制限: 60万円を超える未払金には利用できません。
- 債務者の異議による移行: 債務者が少額訴訟の途中で異議を唱えると、通常の訴訟(簡易裁判所の通常訴訟)に移行し、当初の目的であった迅速性が失われる可能性があります。
- 利用回数制限: 同一の簡易裁判所では、年間10回までしか利用できません。
2-2. 方法2:支払督促(書面審査のみで進む手続き)

- メリット:
- 費用が安い: 訴訟に比べて印紙代が半額程度で済み、弁護士費用も抑えられることが多いです。
- 裁判所への出廷不要: 書面審査のため、裁判所に出廷する必要がありません。
- 迅速性: 債務者から異議申立てがなければ、比較的短期間(1〜2ヶ月程度)で債務名義(仮執行宣言付き支払督促)を取得できます。
- デメリット:
- 債務者の異議による移行: 債務者が異議申立てをすると、通常の訴訟に移行してしまい、時間や費用がかかる可能性があります。この場合、最初から訴訟を提起した方が早かったということもあり得ます。
- 国内限定: 債務者の住所が日本国内に限定されます。海外の債務者には利用できません。
2-3. 方法3:民事調停(話し合いによる解決)

- メリット:
- 費用が安い: 訴訟に比べて費用が安価です。
- 柔軟な解決: 話し合いのため、一括払いだけでなく、分割払い、支払い期日の延長、一部債務の減額など、柔軟な解決が可能です。
- 関係性の維持: 判決ではなく合意による解決を目指すため、今後の取引関係を完全に断ち切らずに解決したい場合に有効です。
- 債務名義の取得: 調停が成立すれば、その内容を記載した「調停調書」は債務名義となり、強制執行が可能になります。
- デメリット:
- 強制力がない: 債務者が調停に応じない場合や、話し合いで合意に至らない場合は不成立となり、債務名義は得られません。その場合、改めて訴訟を提起する必要があります。
- 解決までの不確実性: 話し合いのため、解決までに時間がかかる場合や、最終的に解決に至らないリスクがあります。
2-4. 方法4:通常訴訟(最も一般的な裁判手続き)

- メリット:
- 金額制限なし: 未払金額に制限がなく、高額な未払金にも対応できます。
- 確実な決着: 判決が出れば、債務名義として強制執行が可能になるため、債務者が徹底的に争う姿勢を見せている場合でも、最終的な決着をつけられます。
- 複雑な問題に対応: 契約内容の解釈、損害賠償請求、複数の債務者が絡む場合など、複雑な法律問題が絡む場合にも対応可能です。
- デメリット:
- 費用が高額: 弁護士費用、印紙代、予納郵券代などが他の手続きに比べて高額になる傾向があります。
- 解決までに時間がかかる: 複数回の期日が必要となり、審理が長期化(数ヶ月から年単位)する可能性があります。
- 手続きが複雑: 専門的な法律知識と経験が求められ、ほとんどの場合、弁護士への依頼が必須となります。
2-5. 方法5:強制執行(債務名義取得後の最終手段)

- メリット:
- 強制力: 債務者の意思に関わらず、国家の強制力をもって未払金を回収できます。
- 最終手段: 他の交渉や裁判で債務名義を得たにもかかわらず、支払いに応じない場合の最終的な回収方法です。
- デメリット:
- 債務名義が必要: 強制執行を行うためには、必ず何らかの債務名義を事前に取得している必要があります。
- 財産調査の困難さ: 債務者に差し押さえ可能な財産がなければ回収できません。財産を隠蔽されている場合、発見が困難なこともあります。
- 手続きが複雑: 専門的な知識が必要であり、通常は弁護士に依頼します。
- 費用と時間: 執行手続きにも別途費用と時間がかかります。
表:主な法的手段の比較と選択ポイント
手段 | 未収金額の目安 | 債務者の状況 | 費用目安 | 期間目安 | 債務名義取得 | 自社で可能か(専門家不要) | 専門家への依頼推奨 |
少額訴訟 | 60万円以下 | 比較的協力的、少額 | 低〜中 | 短(1〜2ヶ月) | 可 | △(可能だが推奨しない) | △(司法書士推奨) |
支払督促 | 金額制限なし | 異議申立ての可能性が低い | 低 | 短(1〜2ヶ月) | 可 | △(可能だが推奨しない) | △(司法書士推奨) |
民事調停 | 金額制限なし | 話し合いに応じる | 低 | 中(1〜数ヶ月) | 可 | △(可能だが推奨しない) | △(司法書士推奨) |
通常訴訟 | 金額制限なし | 徹底的に争う、高額 | 高 | 長(数ヶ月〜年) | 可 | ✕(困難) | ◎(弁護士必須) |
強制執行 | 金額制限なし | 債務名義あり、任意不履行 | 高 | 中(数ヶ月) | 必須 | ✕(困難) | ◎(弁護士必須) |

第3章:訴訟以外の回収方法と専門家への依頼

訴訟は強力な手段ですが、未払金の回収方法には、その手前の自力での督促や、専門家への依頼といった選択肢も存在します。
3-1. 訴訟前の「自力回収」の重要性

訴訟に踏み切る前に、まずは以下の自力回収方法を試みることが重要です。多くの場合、これらの初期対応で解決に至ります。
- 電話での確認・督促:
- 支払期日を過ぎた直後に、丁寧な口調で入金状況を確認します。支払い忘れや事務処理ミスが原因の場合が多いため、相手の事情を伺いながら、具体的な支払い予定日を確認します。
- 全ての会話内容(日時、相手の名前、内容、約束事項)を詳細に記録に残すことが重要です。
- 再請求書・督促状の送付:
- 電話で解決しない場合、改めて請求書や督促状を郵送します。「再請求書」であることを明記し、元の請求書と区別できるようにします。
- 内容証明郵便の送付は、法的手段への移行を明確に示す最終警告として非常に効果的です。誰が、いつ、誰に、どのような内容の文書を送ったかを郵便局が公的に証明してくれるため、強力な証拠となります。
- 直接交渉・支払い計画の提案:
- 債務者から連絡があった場合や、自ら債務者と面談・電話交渉を行います。
- 債務者が資金繰りの問題を抱えている場合、分割払いや支払い期日の延長を提案するなど、柔軟な姿勢で回収を目指します。
- 口約束は厳禁です。合意内容は必ず**「債務承認弁済契約書」などの書面に残し、双方で署名・押印し、可能であれば公正証書**としておくことで、不履行時の強制執行が可能となります。
3-2. 専門家への依頼:弁護士と司法書士

- 弁護士への依頼:
- 対応範囲: 債務者との交渉、内容証明郵便の作成・送付、少額訴訟、支払督促、民事調停、通常訴訟の提起と代理、強制執行の手続き、債務者の財産調査など、売掛金・未払金回収に関するあらゆる業務を代行できます。
- 依頼を検討すべきケース:
- 未払金額が高額(数十万円以上)な場合。
- 債務者が悪質(連絡無視、不当なクレーム、所在不明など)な場合。
- 訴訟や強制執行を視野に入れている場合。
- 債務者が倒産寸前、または倒産手続きに入った場合。
- 時効が迫っている場合。
- 複雑な法律問題が絡む場合(契約内容の解釈、連帯保証人の責任追及など)。
- 自社で回収に時間を割くことが困難な場合や、精神的負担が大きい場合。
- 費用: 相談料、着手金(請求額の5〜10%程度、最低額設定あり)、報酬金(回収額の10〜20%程度)、実費などが発生します。
- 司法書士への依頼:
- 対応範囲: **法務大臣の認定を受けた「認定司法書士」**は、簡易裁判所の管轄である140万円以下の金銭債権に限り、弁護士と同様に法的手続きの代理を行うことができます。具体的には、内容証明郵便の作成・送付、簡易裁判所における少額訴訟、支払督促、民事調停の申立てや代理、一部の強制執行手続きなどが可能です。
- 依頼を検討すべきケース:
- 未払金額が140万円以下の場合。
- 費用を抑えつつ、法的な手続きを進めたい場合。
- 債務者との紛争が簡易裁判所で解決できる範囲であると判断できる場合。
- 留意点: 140万円を超える債権や、地方裁判所の管轄となる複雑な訴訟、あるいは自己破産・民事再生などの倒産手続きには対応できません。
3-3. 債権回収会社の活用

「債権管理回収業に関する特別措置法(サービサー法)」に基づき、法務大臣の許可を得て、特定の不良債権の回収を専門に行う会社です。
- 対応範囲: 主に金融機関の債権や、特定の種類の不良債権の回収(一般企業の売掛金債権全てが対象ではない場合があります)。未払債権を債権回収会社に売却し、すぐに資金化することも可能ですが、売却額は大幅に減額されます。

結論:未払金・売掛金は放置せず、最適な手段で確実に回収しましょう!

未払金や売掛金は、企業の健全な経営を脅かす深刻な問題です。感情的な対応や放置は、さらなる損失を生み、最終的には企業の存続をも危うくしかねません。
それぞれの方法には、メリット・デメリット、費用、期間が異なりますが、重要なのは、未払い金額、債務者の状況、そして回収の緊急性に応じて、最適な方法を選択し、迅速に行動に移すことです。
また、専門家である弁護士や認定司法書士の力を借りることで、複雑な法的手続きもスムーズに進めることができます。
あなたの会社の正当な売上と未来を守るために、未払金を決して諦めず、最適な回収戦略を実行しましょう。
【補足:成功報酬で債権回収するならXP法律事務所とは】
XP法律事務所は、債権回収を成功報酬で行います。
ご興味ある方は下記から相談

債権回収に関してご相談
FAQ
①売掛保証・債権保証とは?
売掛保証とは、企業が商品やサービスを販売した際に発生する売掛金(未回収の代金)が、取引先の倒産や支払い遅延などで回収できなくなった場合に、保証会社や保険会社がその損失を補償してくれるサービスです。
これは、債権保証とも呼ばれ、企業の資金繰り安定や貸倒れリスクの軽減を目的としています。売掛保証を導入すれば、安心して新規取引や大口契約に挑戦でき、事業拡大を後押しする効果が期待できます。いわば、会社の売上を守る「安心の保険」のようなものです。
申し込みはこちら:https://toshika-lp.protocol.ooo/protocol-deal
②債権回収・未払い回収とは?
債権回収とは、企業や個人が、商品やサービスの提供、または貸付などによって発生した「債権」(お金を受け取る権利)について、約束の期日になっても相手方(債務者)から支払いがない場合に、そのお金を取り戻すための一連の活動を指します。
具体的には、支払いの催促(督促)、交渉、そして最終的には法的手段(内容証明郵便の送付、少額訴訟、通常訴訟、強制執行など)を通じて、未回収の資金を回収するプロセスです。会社の資金繰りを健全に保つ上で非常に重要な業務です。
申し込みはこちら:https://xp-law.com/saikennkaisyuu