01ABL(動産・債権担保融資)とは
ABLって、ファクタリングみたいなもの?
いいえ、売掛金や在庫、機械などを担保にして借りる融資です。不動産を持たない会社でも、事業の資産を活かして資金調達を検討できます。
ABL(Asset Based Lending)は、売掛債権・在庫・機械設備など、事業に使っている資産を担保にして受ける融資です。日本では「動産・売掛金担保融資」「動産・債権担保融資」とも呼ばれます。
従来の中小企業向け融資は、不動産担保や経営者保証に頼る傾向がありました。ABLは、事業そのものが生み出す資産に着目する点が特徴です。そのため、不動産を持たない会社でも、売掛金や在庫を活かして資金調達を検討できます。
金融庁は2013年(平成25年)2月、ABLの積極的な活用を推進するため、金融検査マニュアルの運用の明確化を公表しました。中小企業が経営改善・事業再生や新たな事業に挑戦するための資金を確保しやすくする狙いが示されています。
ABLは、金利を払って借りる点ではふつうの融資と同じです。違いは、何を頼りに貸すかにあります。事業がうまく回っていれば在庫は売れ、売掛金は回収されます。その流れそのものを担保として評価するのがABLの考え方です。
ふつうの融資との違い
| 項目 | ABL | 不動産担保・保証中心の融資 |
|---|---|---|
| 主な担保 | 売掛債権・在庫・機械設備などの事業資産 | 土地・建物、経営者保証、保証協会の保証 |
| 貸し手が見るもの | 担保資産の中身と動き、事業の実態 | 決算書・不動産の評価・保証人の資力 |
| 融資後の関係 | 担保資産の状況を定期的に報告することが多い | 決算書の提出が中心 |
| 枠の動き | 担保資産の増減に応じて借入枠が変わる設計もある | 契約時に決めた金額が基本 |
※一般的な整理です。取り扱いの有無や条件は金融機関によって異なります。
ABLはあくまで「借入+担保の提供」です。返済義務がある点が、売掛金を売却するファクタリングとの大きな違いになります。融資全体の位置づけは融資・デットのまとめをご覧ください。
02担保になる資産
何を担保にできるの?
売掛金、在庫、機械設備などです。売掛金なら取引先の信用、在庫なら売りやすさや価格の安定性などが見られます。
ABLで担保として検討される資産には、たとえば次のようなものがあります。対象や評価方法は、金融機関や資産の内容によって異なります。
| 資産 | 中身の例 | 評価で見られやすい点 |
|---|---|---|
| 売掛債権 | 取引先に対する未回収の代金 | 取引先の信用力、回収の実績、支払いの遅れの有無 |
| 在庫(棚卸資産) | 商品・製品・原材料 | 売りやすさ、価格の安定性、保管状況、劣化・流行の影響 |
| 機械設備 | 製造機械・車両・建機など | 中古市場での売りやすさ、使用年数、保守の状況 |
| その他の動産 | 業種によりさまざま | 個別に判断される |
※一般的な傾向です。実際の評価は金融機関や専門の評価会社の判断によります。
売掛債権を担保にするとき
売掛債権は、取引先から支払われる予定のお金です。そのため、自社の業績だけでなく、取引先の信用力も評価に影響します。特定の取引先への売上が大きいほど、その取引先の状況に左右されやすくなります。
取引先との契約に譲渡制限特約がある場合も確認が必要です。民法では、譲渡を禁止・制限する特約があっても債権の譲渡自体は効力を妨げられないとされています。一方で、特約を知っていた譲受人などに対しては、債務者が支払いを拒めるといった規定もあります。担保に入れる前に、契約書の条項を確認しましょう。
在庫を担保にするとき
在庫は、売れる見込みや換金のしやすさで評価が大きく変わります。腐りやすい食品、流行に左右される商品、特注品などは、評価が低くなりやすいとされます。どこに、何が、どれだけあるかを説明できるよう、在庫の管理体制を整えておくことが前提になります。
03ABLの仕組みと登記の役割
登記って、何のためにするの?
担保に入れたことを、第三者に主張できるようにするためです。在庫や機械は動産譲渡登記、売掛金は債権譲渡登記を使います。
ABLでは一般に、担保とする資産を貸し手に「譲渡担保」として差し入れます。返済が続いている間は、借り手が在庫を販売したり、売掛金を回収したりして事業を続けます。返済が滞った場合に、貸し手が担保から回収する仕組みです。
動産譲渡登記
在庫や機械などの動産を担保にするときに使われるのが、法務省が所管する動産譲渡登記です。法務省によると、登記をすると動産の引渡しがあったものとみなされ、第三者対抗要件が備わります。
- 譲渡人は法人に限られます(個人事業主は利用できません)
- 担保目的か真正な売却かを問わず登記できます
- 個別の動産のほか、倉庫内の在庫一式のような集合動産も登記できます
- 同じ動産が二重に譲渡された場合、優劣は登記の先後で決まります
- 全国の事務は東京法務局(動産登録課)が扱います
なお法務省は、動産譲渡登記は動産の存在そのものや所有権の帰属を公示するものではない、と注意を示しています。
債権譲渡登記
売掛債権を担保にするときに使われるのが債権譲渡登記です。登記をすると、債務者以外の第三者に対しては、民法上の確定日付のある証書による通知があったものとみなされます。譲渡人は法人に限られ、対象は金銭債権です。債務者が特定していない将来の債権も登記できます。
ただし、登記だけでは債務者(取引先)に対して譲渡を主張できません。債務者に主張するには、登記事項証明書を交付して通知するなどの手続きが必要です。このため、取引先に知らせずに売掛債権を担保にし、問題が起きたときに通知する、という使い方が可能になります。
借入枠の考え方(計算例)
ABLでは、担保資産の評価額に一定の割合(掛け目)をかけて借入枠を決める設計が多いとされます。ここでは考え方を示すため、掛け目を仮に置いて計算します。実際の掛け目は金融機関・資産ごとに異なります。
| 担保資産 | 評価額 | 掛け目(仮) | 枠への算入額 |
|---|---|---|---|
| 売掛債権 | 1,000万円 | 80% | 800万円 |
| 在庫 | 500万円 | 50% | 250万円 |
| 合計 | 1,500万円 | — | 1,050万円 |
この例では、借入枠の上限は1,050万円です。翌月に売掛債権が800万円に減れば、売掛債権の算入額は640万円(800万円×80%)になり、枠は890万円に下がります。担保資産が減ると、借りられる額も減る点に注意が必要です。
04ABLのメリット
ABLのいいところは?
不動産がなくても検討でき、売上が伸びて売掛金や在庫が増えると、それに合わせて借入枠が広がる設計にできることです。
ABLには、不動産担保中心の融資にはない利点があります。
1. 不動産がなくても資金調達を検討できる
事業資産を担保にできるため、自社ビルや土地を持たない会社でも検討の対象になります。卸売業・製造業など、売掛金や在庫を多く抱える業種と相性がよいとされます。
2. 事業の成長に合わせて枠を設計できる
売上が伸びると、売掛金や在庫も増えます。担保資産に連動して借入枠が動く設計なら、成長に合わせて必要な運転資金を確保しやすくなります。とくに、仕入れが先、入金が後になる業種では運転資金がふくらみやすく、こうした仕組みが役立つことがあります。
たとえば、毎月の仕入れが1,000万円、販売から入金までが2か月かかる卸売業を考えます。売上が伸びて仕入れが1,500万円に増えると、入金までの間に立て替えるお金も増えます。売掛金・在庫の増加に合わせて枠が広がる設計なら、こうした「増収に伴う資金不足」に対応しやすくなります。必要な運転資金の大きさは必要運転資金の計算ツールで目安をつかめます。
3. 事業の実態を貸し手に伝えやすい
担保資産の報告を通じて、貸し手は在庫の動きや売掛金の回収状況を継続的に把握します。決算書の数字だけでは伝わりにくい事業の実態を理解してもらえる面があります。
4. 経営者保証への依存を減らせる可能性
事業資産に担保を求める分、経営者保証や不動産担保への依存を減らす方向で検討できる場合があります。ただし、経営者保証が不要になるかどうかは、金融機関の判断によります。
05注意点・デメリット
気をつけることは?
売掛金や在庫の状況を定期的に報告する手間があります。借入なので、取引先が倒産しても返済は続きます。
ABLは事業資産を活かせる一方で、担保ならではの負担もあります。判断の前に両面を理解しておきましょう。
モニタリングの手間
担保資産の状況を、定期的に報告することが求められやすいです。たとえば、売掛金の残高一覧や在庫の明細を毎月提出する、といった形です。経理や在庫管理の体制が整っていないと、この報告が大きな負担になります。
評価・管理のコスト
在庫や機械の評価、登記の手続き、在庫の実地確認などに費用や手間がかかることがあります。借入額が小さいと、こうしたコストが相対的に重くなります。
担保資産の扱いに制約がかかる
担保に入れた在庫を、通常の販売の範囲を超えてまとめて処分する場合などは、貸し手との取り決めが必要になることがあります。契約で何が認められているかを確認しておきましょう。
返済義務は残る
ABLは借入です。担保があっても、返済義務はなくなりません。売掛先が倒産して回収できなくなっても、借入の返済は続きます。売掛先の倒産リスクに備えたい場合は、売掛保証などを別に検討します。
取り扱う金融機関が限られることがある
ABLは専門的な評価や管理が必要なため、すべての金融機関が積極的に取り扱っているとは限りません。まずは取引のある地方銀行や信用金庫に、取り扱いの有無を相談してみるのが一般的な進め方です。
06ファクタリングとの違い
ファクタリングと何が違うの?
ABLは担保に入れて借りるので返済があり、ファクタリングは売掛金を売るので借入にはあたりません。続けて使う枠ならABLが多いです。
ABLとよく比較されるのがファクタリングです。どちらも売掛金に関わりますが、「借りる」のか「売る」のかという根本が違います。
| 観点 | ABL | ファクタリング |
|---|---|---|
| 取引の性質 | 借入(融資) | 売掛債権の売却 |
| 売掛金の扱い | 担保として差し入れる | 債権そのものを譲渡する |
| 返済義務 | あり | 一般に、売掛金の回収が前提で、借入の返済とは異なる |
| 会計上の扱い | 借入として負債に計上 | 原則として借入にはあたらない |
| コストの形 | 金利(利息) | 手数料(買取額との差額) |
| 使い方 | 継続的な借入枠として使うことが多い | 必要なときに個別の売掛金を資金化 |
| 在庫の活用 | 在庫も担保にできる | 対象は売掛債権 |
※一般的な整理です。契約形態や個別の取引によって扱いは異なります。
ファクタリングには、自社と買取会社の2者で行う2社間と、取引先も加わる3社間があります。手数料の水準は形態や条件で変わります。手数料を年率に直して比べたい場合は、ファクタリングの年率計算ツールを使うと、融資の金利と同じ物差しで比較できます。
コストの比べ方
ABLの金利と、ファクタリングの手数料は、形が違うためそのままでは比べにくいものです。ファクタリングの手数料は、資金化から売掛金の入金日までの短い期間にかかるコストです。年率に直すと、見た目より高くなることがあります。一方、ABLは金利に加えて、評価・登記・報告などの手間と費用がかかります。金額と期間をそろえ、総額で比較しましょう。
どちらが向くか
- ABLが向きやすい:売掛金・在庫が継続的にあり、管理体制が整っている。中長期で運転資金の枠を持ちたい
- ファクタリングが向きやすい:特定の売掛金の入金を早めたい。借入を増やしたくない。すぐに資金が必要
同じ売掛金を、ABLの担保に入れたうえでファクタリングにも出すと、二重譲渡になり重大なトラブルになります。両方を使う場合は、対象となる債権を明確に分けましょう。
07最近の制度の動き
最近、法律が変わったって本当?
2025年5月に譲渡担保法が成立しました。2024年に成立した法律で、事業全体の価値を担保にする企業価値担保権もできています。
事業資産を担保にした資金調達については、近年、法律の整備が進んでいます。
譲渡担保法の成立
2025年(令和7年)5月30日、「譲渡担保契約及び所有権留保契約に関する法律」(譲渡担保法)が成立し、同年6月6日に公布されました。法務省によると、これまで法令に明文の規定がなかった、動産や債権などを対象とする譲渡担保契約・所有権留保契約の効力や、実行の方法、破産手続などでの扱いを定める法律です。あわせて、動産・債権譲渡登記制度の見直しなどを行う整備法も成立しています。
施行日は、一部の規定を除き、公布の日から2年6か月を超えない範囲内で政令で定める日とされています。ABLの実務にも影響しうるため、利用を検討する際は最新の情報を確認しましょう。
企業価値担保権
2024年(令和6年)に成立した事業性融資推進法により、「企業価値担保権」という新しい担保の仕組みが設けられました。金融庁の公表によると、関連する政令・内閣府令等は2026年(令和8年)5月25日から施行とされています。個別の資産ではなく、事業全体の価値を担保にする考え方で、不動産担保や経営者保証に頼らない融資を後押しする狙いがあります。
ABLが「個別の資産」に着目するのに対し、企業価値担保権は「事業全体」に着目する点が違います。どちらが使えるか、どちらが合うかは金融機関や事業の状況によります。新しい制度のため、取り扱いの状況は金融機関に確認が必要です。
08契約で確認したいポイント
契約で、どこを見ればいい?
担保の範囲、報告の頻度、借入枠の決め方です。売上が落ちると枠も縮むので、そのときの扱いを確かめておきましょう。
ABLの契約は、ふつうの融資より取り決めが多くなりがちです。署名する前に、少なくとも次の点を確認しておきましょう。
| 確認項目 | 見ておきたい中身 |
|---|---|
| 担保の範囲 | どの売掛金・どの在庫が対象か。将来発生する売掛金や、新たに仕入れる在庫も含むか |
| 報告の内容と頻度 | 何を、どのくらいの頻度で、どの形式で提出するか |
| 借入枠の決め方 | 評価額と掛け目の考え方。枠が下がったときに追加の返済を求められるか |
| 在庫の販売・処分 | 通常の販売はどこまで自由か。まとめて売る、廃棄する場合の手続き |
| 売掛金の入金口座 | 入金先の口座が指定されるか |
| 期限の利益の喪失 | どんな場合に一括返済を求められるか(期限の利益) |
| 保証の有無 | 経営者保証や保証協会の保証を併用するか |
※確認項目の例です。実際の契約内容は金融機関によって異なります。
とくに注意したいのが、担保資産が減ったときの扱いです。売上が落ちる局面では、売掛金も在庫も減りやすく、借入枠も小さくなります。資金が必要なときほど枠が縮むという構造があるため、不況期の動きを想定しておくことが大切です。
不明な点は、契約前に金融機関へ質問しましょう。条項の意味が難しい場合は、弁護士や税理士などの専門家に確認すると安心です。
09ABLが向く会社・向かない会社
うちの会社に向いてる?
売掛金や在庫が続けてあり、毎月の報告ができる会社向きです。数日以内にお金が必要なときは、準備に時間がかかるので向きません。
| 向きやすい会社 | 向きにくい会社 |
|---|---|
| 売掛金・在庫が継続的に一定以上ある | 売掛金・在庫がほとんどない(現金商売・サービス業など) |
| 取引先の信用力が高く、回収が安定している | 売掛先の支払い遅れが多い |
| 在庫の数量・場所・価値を説明できる | 在庫の管理が台帳と合っていない |
| 毎月の報告に対応できる経理体制がある | 決算や月次の数字づくりに時間がかかる |
| 中長期で運転資金の枠が必要 | 数日以内に資金が必要(準備に時間がかかる) |
※一般的な傾向です。最終的な判断は金融機関の審査によります。
ABLは、評価や登記などの準備が必要なため、急ぎの資金には向かないことが多いです。数日以内に資金が必要な場合は、ファクタリングやビジネスローンなど、別の手段も並べて検討しましょう。急ぎの選択肢は急ぎの資金調達の方法で整理しています。
10検討の進め方と準備
何から準備すればいい?
売掛金の取引先別の残高と、在庫の台帳を整えることからです。そのうえで、取引のある金融機関に扱いがあるか相談します。
ABLを検討するときの一般的な流れです。順番や必要書類は金融機関によって異なります。
- 担保にできそうな資産を棚卸しする:売掛金の取引先別残高、在庫の品目別の数量・金額、機械設備の一覧をつくる
- 取引のある金融機関に相談する:取り扱いの有無と、対象になりそうな資産を確認する
- 資産の評価:在庫や機械は、金融機関や評価の専門家が評価することがある
- 契約と登記:融資契約・担保設定の契約を結び、必要に応じて動産譲渡登記・債権譲渡登記を行う
- 実行とモニタリング:融資の実行後、定期的に担保資産の状況を報告する
先に整えておきたいこと
- 売掛金の残高一覧(取引先別・入金予定日別)
- 在庫の台帳と、実際の在庫が一致しているか
- 月次の試算表を早めに締める体制
- 取引先との契約書(譲渡制限特約の有無)
月ごとの入出金を見通す資金繰り表もあわせて用意しておくと、必要な借入枠の大きさを説明しやすくなります。どの手段が自社に合うか迷う場合は、比較・診断や無料相談もご利用ください。
11よくある質問
ABLとファクタリングは何が違いますか?
在庫も担保にできますか?
個人事業主でも使えますか?
取引先に知られずに売掛金を担保にできますか?
譲渡制限特約がある売掛金は担保にできませんか?
中小企業でも使えますか?
企業価値担保権とABLの違いは?
出典・参考(6件)
- 金融庁「ABL(動産・売掛金担保融資)の積極的活用について」(2013年2月5日) https://www.fsa.go.jp/news/24/ginkou/20130205-1.html(2026年10月確認)
- 法務省「動産譲渡登記制度とは?」 https://www.moj.go.jp/MINJI/DOUSANTOUKI/seido.html(2026年10月確認)
- 法務省「債権譲渡登記制度について」 https://www.moj.go.jp/MINJI/minji06_00172.html(2026年10月確認)
- 法務省「譲渡担保法について」 https://www.moj.go.jp/MINJI/minji07_00371.html(2026年10月確認)
- 金融庁「事業性融資の推進等に関する法律施行令(案)」等に対するパブリックコメントの結果等について(2025年7月2日) https://www.fsa.go.jp/news/r7/sonota/20250702/20250702.html(2026年10月確認)
- e-Gov法令検索「民法」第466条 https://laws.e-gov.go.jp/law/129AC0000000089(2026年10月確認)
本記事は一般的な情報提供で、特定の金融商品の勧誘を目的とするものではありません。条件は事業者や状況により異なります。契約の内容は、専門家にご確認ください。
