01なぜ計画書・資金繰り表が要るのか
実績がなくても、融資の審査は通るの?
過去の数字で返済の見通しを示せないぶん、これから何が起きるかを言葉と数字で説明する事業計画書と資金繰り表が必要になります。
融資は「貸したお金が返ってくるか」で判断されます。すでに実績がある会社なら、決算書が判断の材料になります。一方、創業前や創業間もない会社、新しい事業に取り組む会社は、過去の数字だけでは返済の見通しを説明できません。そこで、これから何が起きるのかを言葉と数字で説明する書類が必要になります。
その役割を担うのが、事業計画書と資金繰り表です。
| 書類 | 示すもの | 単位 |
|---|---|---|
| 事業計画書 | 何を誰にどう売り、どれだけ利益が出て、どう返すか | 年・月平均など |
| 資金繰り表 | 手元の現金がいつ・いくらになるか | 月ごと |
利益が出ていても、入金と出金のタイミングがずれれば現金は足りなくなります。いわゆる黒字倒産は、このずれから起こります。事業計画書で「もうかる理屈」を、資金繰り表で「お金が回る理屈」を示すことで、はじめて返済の現実味が伝わります。
書類づくりは、審査のためだけのものではありません。数字を積み上げる過程で、事業の弱点や見落としに気づけます。日本政策金融公庫も、創業計画書の作成には事業の内容や強み・弱みを整理できる利点があると案内しています。審査の全体像は融資審査で見られるポイントもあわせて確認しておきましょう。
02公庫の創業計画書の記載項目
創業計画書には、何を書けばいいの?
創業の動機、経営者の略歴、取扱商品、取引先や従業員などです。様式の項目が、そのまま担当者の知りたいことの一覧になっています。
日本政策金融公庫(国民生活事業)は、創業計画書の様式と記入例を公開しています。様式の構成は、そのまま「融資の担当者が知りたいこと」の一覧になっているので、創業でない場合も参考になります。
| 項目 | 書く内容の例 |
|---|---|
| 1 創業の動機 | どのような目的・きっかけで始めるのか |
| 2 経営者の略歴等 | 勤務先名だけでなく、担当業務・役職・身につけた技能 |
| 3 取扱商品・サービス | 商品・サービスの内容、セールスポイント、販売ターゲット・販売戦略、競合・市場など |
| 4 取引先・取引関係等 | 販売先・仕入先・外注先と、回収・支払の条件 |
| 5 従業員 | 常勤役員の人数、従業員数(家族・パートの内訳) |
| 6 お借入の状況 | 既存の借入先・使いみち・残高・年間返済額 |
| 7 必要な資金と調達方法 | 設備資金・運転資金の内訳と、自己資金・借入などの調達方法 |
| 8 事業の見通し(月平均) | 創業当初と軌道に乗った後の売上高・原価・経費・利益と、その計算根拠 |
| 9 自由記述欄 | 追加でアピールしたいこと、悩み、欲しいアドバイスなど |
※項目名は公庫の創業計画書(記入例)にもとづきます。様式は改定されることがあるため、最新版を公庫の書式ダウンロードで確認してください。
公庫の様式には、この書類に代えて自分で作った計画書を出してもよい旨が書かれています。ただし、自作する場合も上の項目が網羅されているかを確かめると、伝え漏れを防げます。公庫の創業融資の位置づけは公庫の創業融資で解説しています。
とくに見られやすい欄
一般に重視されやすいのは「7 必要な資金と調達方法」と「8 事業の見通し」です。7では、必要な資金の内訳に見積書などの裏付けがあるか、自己資金をどれだけ用意しているかが見られます。8では、売上の数字に根拠があるか、利益から返済ができるかが見られます。
03必要な資金と調達方法の書き方
必要なお金は、どう書けばいい?
思いつきの金額でなく、設備資金と運転資金の内訳の合計で示します。必要な資金と調達方法の合計が一致しているのが基本です。
「いくら必要か」は、思いつきの金額ではなく、内訳の合計として示します。資金は大きく、設備資金と運転資金に分けて考えます。
- 設備資金:店舗の内装工事、機械・車両、パソコンなど、長く使うものを買うお金
- 運転資金:仕入代金、人件費、家賃など、事業を回すために一時的に立て替えるお金
計算例:必要な資金と調達方法
説明のための仮の数字です(単位:万円)。
| 必要な資金 | 金額 | 調達の方法 | 金額 |
|---|---|---|---|
| 内装工事(見積書あり) | 500 | 自己資金 | 300 |
| 厨房機器(見積書あり) | 200 | 借入 | 600 |
| 運転資金(仕入・家賃など2か月分程度) | 200 | ||
| 合計 | 900 | 合計 | 900 |
左右の合計が一致していることが基本です。設備資金には見積書をつけ、運転資金は「何の支払いの何か月分か」を説明できるようにします。運転資金を多めに見すぎると、使いみちを問われることがあります。逆に少なすぎると、売上が立つまでの間に資金が尽きるおそれがあります。
自己資金は、通帳の記録で貯めてきた経緯を示せると説明しやすくなります。一時的に借りてきたお金を自己資金に見せることは、信頼を大きく損ないます。
04事業計画書の基本構成
事業計画書には決まった形があるの?
決まった形はありません。事業の概要、資金の使いみち、売上の根拠、返済計画などを、各項目がつながるように整理します。
事業計画書に決まった形はありません。既存の会社が銀行などに提出する場合は、一般に次のような要素を順に整理すると伝わりやすくなります。
- 会社・事業の概要:何を、誰に、どう提供しているか。沿革と現在の規模
- 市場と競合:顧客はどこにいるか。競合と比べた自社の強み
- 資金の使いみち:何に、いくら使うか。設備資金なら見積書を添える
- 売上の根拠:客数・単価・稼働などの内訳を積み上げる
- 収支計画:売上から原価・経費を引いた利益の見通し
- 返済計画:利益のうち、どれだけを返済にあてられるか
- リスクと対策:計画どおりにいかない場合の備え
分量よりも、各項目がつながっていることが大切です。たとえば「資金の使いみち」で新しい機械を買うなら、「売上の根拠」でその機械で生産量がどれだけ増えるかを示し、「返済計画」で増えた利益から返すことを示します。使いみち→売上→利益→返済が一本の線でつながるように組み立てましょう。
創業と既存の会社で違う点
創業の場合は実績がないため、経営者の経験と自己資金、計画の根拠が中心に見られやすくなります。既存の会社の場合は、決算書の数字がまず見られ、計画はそれを補う役割になります。赤字の期がある場合は、その原因と、どう改善するかを計画の中で説明すると、数字だけで判断されるのを避けやすくなります。
既存の会社の場合は、過去2〜3期の決算の数字と計画の数字を並べると、計画の現実味を判断してもらいやすくなります。過去の売上の伸びに比べて、計画だけが急に伸びている場合は、その理由を説明できるようにしておきます。
05売上の根拠を積み上げる(計算例)
売上の見通しは、どう作ればいい?
借りたい額から逆算せず、説明できる要素の掛け算で積み上げます。飲食店なら客単価×席数×回転数×営業日数のように示します。
売上の見通しは、計画の土台です。希望の借入額から逆算した数字ではなく、説明できる要素の掛け算で積み上げます。公庫の創業計画書の記入例でも、「単価×席数×回転数×営業日数」のように内訳を示す書き方が紹介されています。
業種別の積み上げ方の例
| 業種 | 売上の分解の例 |
|---|---|
| 飲食店 | 客単価×席数×回転数×営業日数 |
| 小売店 | 客単価×1日の客数×営業日数 |
| 美容・サロン | 施術単価×1日の施術数×稼働日数 |
| 製造業 | 製品単価×月の生産・出荷数量 |
| サービス・受託 | 契約単価×契約件数(継続分+新規分) |
計算例:小さなカフェ(月平均)
説明のための仮の数字で計算します。
- 売上高:客単価1,200円×1日60人×営業25日=180万円
- 売上原価:180万円×原価率30%=54万円
- 人件費:40万円
- 家賃:20万円
- その他の経費:25万円(うち減価償却費3万円)
- 支払利息:約0.8万円(借入500万円×年2%÷12か月で計算)
利益は、180万円−54万円−40万円−20万円−25万円−0.8万円=約40.2万円です。
このうち、人件費には経営者自身の報酬は含めていません。個人事業主の場合、経営者の生活費は利益の中からまかなうことになります。法人の場合は、役員報酬を人件費に入れて考えます。
それぞれの数字には根拠を添えます。客数なら「近隣の通行量」「似た立地の店での勤務経験」、原価率なら「仕入先の見積もり」、家賃なら「物件の契約条件」などです。創業当初は客数が少ないことが多いため、「当初」と「軌道に乗った後」を分けて示すと、無理のない計画に見えます。
06返済できるかを確かめる
借りたお金の返済は、経費にできる?
元金の返済は経費になりません。利息は経費になりますが、元金は利益から払います。返済の原資は税引き後の利益と減価償却費で考えます。
計画書の最後の関門は「返せるか」です。返済は、利益の中から行います。ここで注意したいのは、借入の元金の返済は経費にならないという点です。利息は経費になりますが、元金は利益から払うことになります。
返済にあてられるお金の目安
一般に、返済の原資は「税金を払った後の利益+減価償却費」で考えることが多いとされます。減価償却費は、経費として利益を減らしますが、実際にお金は出ていかないためです。
計算例:先ほどのカフェ(個人事業主の場合)
- 月の利益:約40.2万円
- 減価償却費を足し戻す:+3万円 → 約43.2万円
- 経営者の生活費:仮に25万円 → 残りは約18.2万円
- 借入500万円を60回の元金均等で返す場合の元金:500万円÷60=約8.3万円
この例では、月約18.2万円の余力に対して元金返済は約8.3万円なので、計算上は返済できる見通しになります。個人事業主の場合は、利益から生活費や税金・社会保険料も払う必要がある点を忘れないようにしましょう。ここでは税金等を簡略化しています。
余裕を見ておく
売上が計画より2割少なかったらどうなるかも試してみます。売上が144万円になると、原価は43.2万円となり、利益は約40.2万円から約25.2万円減って約15.0万円です。減価償却費3万円を足して生活費25万円を引くと約マイナス7万円となり、元金返済の約8.3万円どころか生活費もまかなえません。このように、計画が下ぶれしたときに何が起きるかを把握しておくと、借入額や返済期間の見直し、据置期間の相談などの判断材料になります。返済方式による総額の違いは金利・総返済額の見方で解説しています。
07資金繰り表の作り方(計算例)
資金繰り表は、どう作るの?
月ごとに入金・出金・月末残高を並べます。入金は売れた月でなく実際に入る月に入れ、出金も実際に払う月に入れるのがコツです。
資金繰り表は、月ごとに「入金」「出金」「月末残高」を並べて、現金の動きを追う表です。難しい様式である必要はありません。考え方は次の3つです。
- 入金:売れた月ではなく、実際に入金される月に入れる(掛売りなら入金月)
- 出金:仕入・人件費・家賃・返済など、実際に支払う月に入れる
- 月末残高:前月繰越+当月の入金−当月の出金。これが翌月の繰越になる
計算例:売上が翌月に入金される卸売業
説明のための仮の数字です(単位:万円)。売上は翌月に入金、仕入は当月に現金で支払うとします。2か月目は繁忙期で、売上と仕入が増えます。
| 項目 | 1か月目 | 2か月目 | 3か月目 |
|---|---|---|---|
| 前月繰越 | 150 | 55 | −80 |
| (参考)当月の売上 | 200 | 320 | 200 |
| 入金(前月の売上) | 120 | 200 | 320 |
| 出金:仕入 | 140 | 260 | 140 |
| 出金:人件費・家賃・返済など | 75 | 75 | 75 |
| 出金合計 | 215 | 335 | 215 |
| 月末残高 | 55 | −80 | 25 |
2か月目の月末残高がマイナス80万円になっています。売上が増えたのに、仕入代金の支払いが入金より先に来るため、現金が足りなくなるのです。これが資金ショートです。3か月目には入金が増えて残高はプラスに戻りますが、2か月目をどう乗り切るかが課題になります。
このように前もって見えていれば、運転資金の借入を申し込む、支払条件を相談するなどの手を早めに打てます。資金繰り表は足りないことを隠すためでなく、足りない時期を早く見つけるために作るものです。作り方の詳細とテンプレートは資金繰り表の作り方、必要な運転資金の目安は必要運転資金の計算ツールで確認できます。
収支計画と資金繰り表の違い
月別の収支計画は「もうけ」を、資金繰り表は「現金」を追う表です。たとえば100万円の機械を買うと、収支計画では減価償却費として毎年少しずつ経費になります。一方、資金繰り表では支払った月に100万円が一度に出ていきます。借入の元金の返済も、収支計画には出てきませんが、資金繰り表では毎月の出金です。両方を作ると、利益は出ているのに現金が減る理由が見えるようになります。
何か月分つくるか
必要な期間は制度や状況で異なります。一般には、少なくとも資金がもっとも厳しくなる時期をカバーできる月数を見通せるようにしておくと、返済の道筋を示しやすくなります。
08審査の担当者に伝わるコツ
審査の担当者に伝わるコツは?
計画書と資金繰り表の数字をそろえ、単価や客数の根拠を一言添えます。うまくいかない場合の対策に触れると現実味が伝わります。
同じ内容でも、伝わり方で印象は変わります。背伸びした数字より、整合の取れた計画のほうが信頼されやすい傾向です。
- 計画書と資金繰り表の数字をそろえる:計画書の売上と、資金繰り表の入金がずれていないか。掛売りなら入金が後ろにずれていることを反映する
- 根拠を一言添える:「なぜこの単価か」「なぜこの客数か」を短く補うだけで納得感が増す
- 裏付け資料をつける:見積書、物件の資料、取引先との契約書や発注書、過去の実績など
- 自己資金の出どころを説明できる:通帳で、どのように貯めてきたかを示せるようにしておく
- リスクにも触れる:うまくいかない場合の対策を示すと、かえって計画の現実味が伝わる
- 自分の言葉で説明できる:面談では計画書の中身を質問される。数字の意味を自分で説明できるようにする
面談でよく聞かれやすいこと
面談では、書類に書いた内容を口頭で確認されることが一般的です。たとえば次のような質問を想定して、答えを準備しておきましょう。
- この事業を始める(広げる)理由と、これまでの経験とのつながり
- 最初の顧客はどこから来るのか。すでに見込み客や受注はあるか
- 売上の数字の前提(客数・単価・回転など)はどう決めたか
- 計画より売上が少なかった場合、どう対応するか
- 自己資金はどのように準備したか
- ほかの借入や、家族・取引先からの支援はあるか
答えに詰まった点は、計画の弱いところでもあります。面談の前に、家族や知人、支援機関の担当者に読んでもらい、質問してもらうと準備になります。
計画書は、公庫の創業融資や制度融資など、多くの融資で提出が求められます。保証協会付き融資を使う場合の流れはプロパー融資と保証協会付き融資の違いをご覧ください。
09よくある失敗
| よくある失敗 | なぜ問題か | 直し方 |
|---|---|---|
| 希望額から逆算した売上 | 根拠を聞かれると説明できない | 客数・単価などの積み上げに作り直す |
| 初月から満額の売上 | 立ち上がりの期間を無視している | 「当初」と「軌道に乗った後」を分ける |
| 元金の返済を経費に入れている | 利益の計算と返済の計算が混ざる | 利息だけを経費に。元金は利益から返す |
| 売上と入金を同じ月にしている | 掛売りの入金のずれが見えない | 入金サイトに合わせて入金月をずらす |
| 税金・社会保険料を忘れている | 納付の月に現金が足りなくなる | 納付予定の月に出金として入れる |
| 生活費を見ていない(個人事業主) | 実際に返済にあてられる額を過大に見る | 利益から生活費を引いて返済余力を見る |
※一般的な例です。
10様式の入手先と相談先
一から作るより、公的な様式を出発点にすると整理しやすくなります。日本政策金融公庫の書式ダウンロードでは、国民生活事業向けに次のような様式が公開されています。
- 創業計画書(業種別の記入例つき)
- 月別収支計画書
- 借入申込書
- 企業概要書
- 設備投資計画書
- 資金繰り表(通常版・簡易版)
- 経営改善計画書
※2026年10月時点で公庫サイトに掲載されている様式の一部です。指定の様式がある制度では、それに合わせてください。
作成の相談先
計画書づくりに不安がある場合は、国が設置するよろず支援拠点に相談する方法があります。よろず支援拠点は、中小企業・小規模事業者や創業予定の人の経営相談に、何度でも無料で対応すると案内しています。このほか、商工会・商工会議所、取引のある金融機関、税理士などの専門家も相談先になります。
急ぎで資金が必要で、計画書を作る時間がない場合は、ほかの手段との比較・診断も検討しましょう。融資全体の位置づけは融資・デットのまとめにまとめています。
11よくある質問
様式・テンプレはどこで手に入りますか?
自分で作った計画書を出してもよいですか?
売上はどのように見積もればよいですか?
借入の返済は経費になりますか?
資金繰り表は何か月分つくればよいですか?
利益が出ているのに資金が足りなくなるのはなぜですか?
計画書づくりはどこに相談できますか?
出典・参考(4件)
- 日本政策金融公庫「書式ダウンロード(国民生活事業)」 https://www.jfc.go.jp/n/service/dl_kokumin.html(2026年10月確認)
- 日本政策金融公庫「創業計画書【記入例】」 https://www.jfc.go.jp/n/service/pdf/kaigyourei01_190507c.pdf(2026年10月確認)
- 日本政策金融公庫「創業計画の書き方」 https://www.jfc.go.jp/n/finance/sougyou/business-plan/(2026年10月確認)
- よろず支援拠点全国本部(中小企業基盤整備機構) https://yorozu.smrj.go.jp/(2026年10月確認)
本記事は一般的な情報提供で、特定の金融商品の勧誘を目的とするものではありません。条件は事業者や状況により異なります。契約の内容は、専門家にご確認ください。
