26 分で読める資金繰り総研 編集部
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SUMMARY
SaaSの未払いは何が特殊なの?
売上を計上する時点と請求する時点がずれる点です。年額前払いは前受収益として月割で売上に振り替えるため、処理の起点が変わります。
SaaS・サブスクリプション事業の未払い対応で最初に押さえるべきは、「売上認識時点」と「請求時点」がズレる会計構造です。月額課金モデルでは月次でサービス提供と請求が一致しますが、年額一括前払・複数年契約の場合は前受収益として計上し、月割で売上に振り替えていく処理が必要になります。未払いが発生した場合、その債権が「売掛金」なのか「前受収益の未回収部分」なのかによって、税務処理の起算点が変わります。
SaaS事業の収益認識は大きく4類型に分かれ、未払いが発生する局面もそれぞれ異なります。
SaaSのKPIであるARR(Annual Recurring Revenue)やMRR(Monthly Recurring Revenue)は「将来の収益見込み」であり、会計上の売掛金とは別概念です。ただし、未払いが続くと「実質ARR」と「会計上の売掛金残高」がともに圧迫されるため、両者のモニタリングは並行して行う必要があります。未払いが発生したら、まず「会計上の売掛金」と「ARR/MRRからの除外(チャーン認識)」のどちらを優先するかを決めるのが定石です。
2023年10月開始のインボイス制度(適格請求書等保存方式)下では、SaaS事業者が買い手として支払う場合、適格請求書の保存が仕入税額控除の要件となりました。一方、SaaS事業者が売り手として請求書を発行する場合は、適格請求書発行事業者の登録番号を記載した請求書を発行する必要があります。未払い対応の場面では、督促を行う際に元の請求書(適格請求書)の控えが揃っているかを確認することが、後の貸倒れ消費税控除の前提条件となります。
本記事は税務・仕訳に特化していますが、未払い発生時の回収行動全体については、ハブ記事「SaaS・サブスク利用料の未払い回収方法とは?」で「クレカリトライ→督促メール→内容証明→法的手続」の段階別フローを整理しています。本記事ではそのフローのどの段階で、どの仕訳が発生するかを掘り下げます。
未払いが起きたらすぐ損失にする?
すぐにはしません。まず通常の売掛金として扱い、回収状況に応じて貸倒引当金や貸倒損失へと処理を移していきます。
SaaS未払いが「発生した」時点では、すぐに貸倒損失を計上するわけではありません。まず通常の売掛金として認識し、その後の回収状況に応じて貸倒引当金や貸倒損失へと処理を移していきます。本節では、課金モデル別の基本仕訳例を整理します。
| 場面 | 借方 | 貸方 |
| 当月利用分の売上計上 | 売掛金 110,000円 | 売上高 100,000円 仮受消費税 10,000円 |
| 翌月の入金(正常) | 普通預金 110,000円 | 売掛金 110,000円 |
| 入金遅延(未払い発生時) | 仕訳なし | 仕訳なし |
| 遅延損害金の請求(年14.6%・30日遅延) | 未収入金 1,320円 | 受取利息 1,320円 |
年額一括前払モデルでは、契約時に1年分を請求し、入金後は「前受収益」として計上、毎月「売上高」に振り替えます。未払い発生は「請求したが入金がない」状態で、前受収益は計上できず、売掛金として残ります。
| 場面 | 借方 | 貸方 |
| 年額契約の請求書発行 | 売掛金 1,320,000円 | 前受収益 1,200,000円 仮受消費税 120,000円 |
| 入金(正常) | 普通預金 1,320,000円 | 売掛金 1,320,000円 |
| 月次の売上振替(毎月) | 前受収益 100,000円 | 売上高 100,000円 |
| 未払いで一部のみ入金(6ヶ月分のみ) | 普通預金 660,000円 | 売掛金 660,000円 |
API利用量・ストレージ量等で課金する従量課金モデルでは、月次締めの確定請求まで売上額が確定しません。月末時点で概算で売掛金を計上し、翌月初の確定で精算するのが実務上のスタンダードです。
SaaSの月額前払いでクレジットカード決済が失敗した場合、決済代行会社経由の取引であれば、決済が失敗した時点で「決済代行会社への売掛金」が「ユーザーへの売掛金」に振り替わるイメージで処理することが多くなります。具体的な勘定科目は決済代行会社のレポート仕様によりますが、決済失敗→自社のユーザーリスクに転化という構造の理解が重要です。
無料トライアル期間中はそもそも請求が発生しないため、税務上の未払い問題は発生しません。ただし、有料プランへの移行(コンバージョン)後、初回決済が失敗するケースは未払い扱いになります。この場合、初回1ヶ月分の売掛金処理から通常のフローに乗ります。
取引先が民事再生したら損失にできる?
手続きの中で切り捨てが確定した部分は、貸倒損失として損金にできます。実際の計上は顧問税理士への確認がおすすめです。
債務者について会社更生法・民事再生法・特別清算・破産の手続が開始され、その手続のなかで切り捨てが確定した部分について、貸倒損失として損金算入できます。SaaS事業者の取引先である中堅企業が民事再生を申し立てた、といったケースが該当します。
債務者の資産状況・支払能力等から見て、その全額が回収不能であることが明らかになった場合に、その明らかになった事業年度において、その全額を貸倒損失として損金経理できます。形式的な手続きは不要ですが、「全額回収不能の事実」を客観的に証明する資料の保存が重要です。
継続的取引を行っていた債務者の資産状況・支払能力等が悪化したため取引を停止し、その停止時から1年以上経過した売掛債権(担保物のあるものを除く)について、備忘価額1円を残して損金経理することで貸倒損失として認められます。
| 場面 | 借方 | 貸方 |
| 事実上の貸倒れ(9-6-2)全額計上 | 貸倒損失 550,000円 | 売掛金 550,000円 |
| 形式上の貸倒れ(9-6-3)備忘価額残し | 貸倒損失 549,999円 | 売掛金 549,999円 |
| 法的整理(9-6-1)切り捨て確定分 | 貸倒損失 330,000円 | 売掛金 330,000円 |
貸倒損失の計上時期は税務調査で頻繁に争点となります。特に9-6-2(事実上の貸倒れ)は「全額回収不能であることが明らか」という主観的判断が入りやすく、税務調査官との認識ギャップが生じやすい論点です。計上時期の「明らかになった日」を裏付ける客観資料(不渡り通知、所在不明調査結果、催告書の不到達通知等)を、税務調査開始時点で即座に提示できるよう整理しておくことが重要です。
SaaS企業でも貸倒引当金を使える?
資本金1億円以下の中小法人なら特例の対象で、多くのSaaS事業者に活用の余地があります。資本金1億円超の大法人は原則不可です。
未払い債権が完全に回収不能と確定する前段階で、税務上の手当として認められているのが貸倒引当金です。2026年6月時点では、原則として銀行・保険会社・中小法人等に限定して損金算入が認められています。SaaS事業者の多くは中小法人特例の対象となるため、活用余地があります。
貸倒引当金は「一括評価金銭債権に係る貸倒引当金」と「個別評価金銭債権に係る貸倒引当金」の2区分で構成され、両方を併用できます。
中小法人が法定繰入率を選択する場合、業種別に繰入率が定められています。SaaS・サブスク事業は明確な業種区分がない場合があり、「その他の事業」または事業実態に応じた区分での適用となります。具体的な繰入率は税制改正で変動するため、毎年度の税理士確認が必須です。
| 事由 | 繰入限度額の目安 |
| 会社更生法・民事再生法等の手続申立 | 個別評価金銭債権の50%相当額 |
| 債務超過状態が相当期間継続し、事業好転の見通しがない | 取立等の見込みがない部分の金額 |
| 形式的破綻(手形交換所の取引停止処分等) | 個別評価金銭債権の50%相当額 |
| 事実上の貸倒れに該当する事由 | 全額(ただし通達9-6-2の要件も検討) |
| 場面 | 借方 | 貸方 |
| 期末の引当金繰入 | 貸倒引当金繰入 200,000円 | 貸倒引当金 200,000円 |
| 翌期に貸倒れ発生・引当金取崩 | 貸倒引当金 200,000円 | 売掛金 200,000円 |
| 引当金で不足し追加損失計上 | 貸倒損失 50,000円 | 売掛金 50,000円 |
| 洗替法での戻入(期末) | 貸倒引当金 ××× | 貸倒引当金戻入 ××× |
回収できない売上の消費税はどうなる?
標準税率10%なら、貸倒れた売掛金(税込)の10/110を消費税額から差し引けます。忘れると回収できない売上の消費税を負担し続けます。
売掛金が貸倒れとなった場合、その売掛金に含まれていた消費税相当額は「貸倒れに係る消費税額の控除」として、貸倒れが発生した課税期間の課税標準額に対する消費税額から差し引けます。これを忘れると、回収できない売上に対する消費税を負担し続けることになります。
2026年6月時点の標準税率10%の場合、貸倒れた売掛金(税込)に「10/110」を乗じた金額が控除対象となります。軽減税率8%対象のSaaS(ほぼ該当しない想定)が混在する場合は、それぞれの税率区分で計算します。
| 場面 | 借方 | 貸方 |
| 税抜経理:貸倒れ計上 | 貸倒損失 1,000,000円 仮受消費税 100,000円 | 売掛金 1,100,000円 |
| 税込経理:貸倒れ計上 | 貸倒損失 1,100,000円 | 売掛金 1,100,000円 |
| 税込経理:消費税の貸倒れ控除(決算整理) | 未払消費税等 100,000円 | 貸倒損失 100,000円 (または雑収入) |
2023年10月以降、適格請求書発行事業者として登録している場合、貸倒れ控除の対象も適格請求書を発行した取引に限定されます。インボイス制度の経過措置期間(2029年9月まで)は、免税事業者からの仕入について80%・50%等の控除が認められますが、売り手側として貸倒れ控除を受ける場合は、自社が適格請求書発行事業者として登録済みであることが前提です。
消費税法39条の適用は、法人税法上の貸倒損失と原則として連動します。法人税で貸倒損失計上が認められない(要件不足)場合は、消費税の貸倒れ控除も適用できません。社内手続として、法人税と消費税の貸倒れ処理を連動させるチェックリストを整備するのが実務上のスタンダードです。
損失処理した後に回収できたら?
次年度以降に回収できた金額は「償却債権取立益」として益金に計上します。
貸倒損失として処理した債権が、後日(次年度以降に)回収できた場合、その金額は「償却債権取立益」として益金に計上します。SaaS事業者の実例では、長期にわたる督促や弁護士介入の末、当初想定していなかったタイミングで一部回収が実現するケースがあります。
| 場面 | 借方 | 貸方 |
| 償却済債権の一部回収 | 普通預金 300,000円 | 償却債権取立益 300,000円 |
| 税抜経理:消費税相当を含む回収 | 普通預金 330,000円 | 償却債権取立益 300,000円 仮受消費税 30,000円 |
貸倒損失計上と同一事業年度内で回収できた場合は、貸倒損失自体を取り消す(マイナスする)方法と、償却債権取立益として益金計上する方法があります。会計慣行としては、同一年度内は貸倒損失の取消し、翌年度以降は償却債権取立益とするケースが多くなります。
貸倒れ控除を受けた売掛金が後日回収できた場合、その消費税相当額は「貸倒回収に係る消費税額」として、回収時の課税期間の課税標準額に対する消費税額に加算します(消費税法39条3項)。社内処理として、貸倒れ控除を受けた債権リストを別途管理しておくと、回収時の処理がスムーズです。
貸倒引当金で洗替法を採用している場合、期末に前期繰入額を全額戻入し、当期分を改めて繰り入れます。差額補充法を採用している場合は、当期繰入限度額と前期残額の差額のみを繰入または戻入します。SaaS事業者では洗替法が比較的シンプルで採用しやすい方法です。
回収のために支払った弁護士費用・回収代行手数料は、回収成功・不成功にかかわらず、支出時の事業年度に「支払手数料」または「弁護士報酬」として損金算入できます(2026年6月時点)。回収金額と弁護士費用を相殺せず、それぞれを総額で計上するのが原則です。
決算日直前に未払いが出たら?
通常の売掛金として残し、翌期に回収か貸倒れかを判断するのが原則です。全額回収不能が明らかでない限り、損失計上は早すぎる可能性があります。
SaaS未払いの税務処理で最も判断が難しいのが、年度跨ぎ(決算期をまたぐ)ケースです。決算日直前に発生した未払い、決算日直後に判明した貸倒事由など、計上時期の判断が翌期の業績・税負担に影響します。
決算日の数日前に支払期日が経過した売掛金は、通常の売掛金として残し、翌期に回収または貸倒れ判断を行うのが原則です。決算日時点で「全額回収不能が明らか」になっていない限り、貸倒損失計上は時期尚早と判断される可能性があります。
決算日後、申告書提出期限までの間に貸倒事由(取引先の倒産通知等)が判明した場合、その事由が「決算日時点で既に存在していた事実」と認められれば、当期の貸倒損失として計上できる場合があります。これは「修正後発事象」と呼ばれる論点で、税理士・監査人との慎重な調整が必要です。
通達9-6-3(形式上の貸倒れ)の「取引停止後1年以上経過」の起算日は、最後の弁済期と最後の取引のうち最も遅い日です。SaaSの月額継続契約では、「最後の利用月」「最後の請求発行日」「契約解除日」のうち最も遅い日が起算日となるため、契約管理システムでの記録が重要です。
償却債権取立益の計上時期は、回収時点(入金時点)が原則です。和解が成立した時点ではなく、実際の入金時点で益金認識します。分割払いで入金される場合は、各入金時点で按分計上します。
上場準備中のSaaS事業者で四半期決算を実施している場合、貸倒引当金・貸倒損失の見積もりは四半期ごとに見直しが必要です。「企業会計基準第29号」収益認識会計基準と「金融商品会計基準」の整合性も求められるため、上場準備期は監査法人との密な連携が不可欠です。
海外ユーザーへのSaaSの消費税は?
ネット経由の提供は「電気通信利用役務の提供」として受ける側の住所地で判定し、海外法人向けは原則として消費税の不課税です。
クロスボーダーで提供されるSaaSでは、海外ユーザーへの請求と未払いの場面で、消費税のリバースチャージ方式と「電気通信利用役務の提供」の判定が論点になります。
2015年10月以降、インターネット等を介して提供されるSaaS・電子書籍・配信動画等は「電気通信利用役務の提供」として、提供を受ける者の住所地で課税判定を行います。日本のSaaS事業者が海外法人にサービス提供する場合、原則として消費税不課税(輸出免税類似の扱い)です。
海外ユーザーの未払いも、法人税法上は国内取引と同様に通達9-6-1〜9-6-3で判断します。ただし、海外の倒産手続を「法的整理」として認めるかどうかは、その国の手続の性質と日本の手続との対応関係次第です。原則として「事実上の貸倒れ(9-6-2)」での処理が現実的で、所在不明調査の証拠保存が重要になります。
外貨建の売掛金が貸倒れた場合、計上時の為替レートと貸倒れ確定時のレート差は為替差損益として処理します。貸倒損失計上額は貸倒れ確定時のレートで換算し、計上時レートとの差額を為替差損益とするのが一般的です。
日本の判決を海外で執行するには、相手国での承認・執行手続が必要で、国ごとに条約・相互保証の有無で大きく異なります。事実上の回収不能と判断するハードルが国内取引よりも低くなるケースが多いのが実務上の特徴です。詳細な未払い対応フローについては、ハブ記事「SaaS・サブスク利用料の未払い回収方法とは?」も参照してください。
貸倒損失の計上は税務調査で最も狙われやすい論点の一つです。「貸倒れ事由の客観的証拠」と「計上時期の妥当性」を裏付ける書類整備が、調査対応の生命線となります。
監査法人への説明では、税務上の要件充足だけでなく、会計基準上の合理性も問われます。「企業会計原則」「金融商品会計基準」での評価減(売掛金の回収可能性評価)の根拠と、税務上の貸倒損失・貸倒引当金の要件をマッピングした整理書類を準備します。
IPO準備・上場後のSaaS事業者では、内部統制報告制度(J-SOX)の対象として、売掛金の回収可能性評価・貸倒引当金の見積もりプロセスが整備対象となります。承認フロー(営業→経理→経営層)の文書化と権限分掌が要件となり、スタートアップ期のフラットな承認フローからの脱却が求められます。
法人税法上の帳簿書類保存期間は原則7年(欠損金繰越に関連する書類は10年)です。2024年1月から電子取引データは電子保存が義務化されているため、SaaS事業者がメール添付で受領した請求書、クラウドサービス上で発行した請求書は、電子帳簿保存法の要件に沿って保存する必要があります。貸倒関連書類も同様の保存ルールが適用されます。
SaaS事業者は経理ツールにもSaaSを採用しているケースが多く、未払い管理・貸倒れ処理の運用は使用ツールによって最適手順が異なります。一般論として押さえておきたいポイントを整理します。
freee会計、マネーフォワードクラウド会計、弥生会計オンライン等のクラウド会計ソフトでは、売掛金の補助科目(取引先別管理)を活用することで、未払い債権のエイジング(滞留期間別残高)を可視化できます。月次決算で「90日超滞留」「180日超滞留」のフラグを立てる運用が、貸倒れ判断のトリガーになります。
請求書発行SaaSで未送付・未入金ステータスを管理しつつ、会計ソフトに仕訳連携する運用が主流です。未払いが続く取引先の請求書はステータスを「督促中」「貸倒検討」に分類し、月次レビューで会計処理判断を行います。
Stripe、Square、GMOペイメントゲートウェイ等の決済代行や、Subscription billing系のプラットフォームを使用している場合、決済失敗ログ・リトライ履歴が貸倒れ判断の重要な証拠になります。月次でCSVエクスポートし、会計データと突合する運用を確立しましょう。
SalesforceやHubSpot等のCRMには、ユーザー企業のヘルススコア・コミュニケーション履歴が蓄積されています。「最後の利用日」「最後のサポート問合せ日」「カスタマーサクセス担当の所感」が、貸倒事由判定の客観資料として有用です。CRMと会計ソフトの連携は、ツール選定時の重要な検討項目になります。
SaaSのユニットエコノミクス指標(LTV、CAC、Payback Period等)を計算する際、未払い・貸倒れによる損失をどう織り込むかは、経営判断の前提となる重要論点です。
LTV(Lifetime Value)の標準的な計算式(ARPU × 平均継続月数 × 粗利率)に、貸倒率(Bad Debt Rate)を控除項目として加える調整がSaaS実務では一般的になりつつあります。「貸倒率2%」を控除するか「実際の入金率98%」を粗利率に乗じるか、社内定義の統一が重要です。
CAC(顧客獲得コスト)の回収期間(Payback Period)は通常「CAC ÷ 月次粗利」で計算しますが、未払いによる回収不能リスクを織り込むなら、回収可能粗利ベースで計算すべきです。年額一括前払モデルでは初月で大部分が回収できるため貸倒リスクが低く、月額後払いモデルでは継続的にリスクを抱える構造的な差があります。
SaaS実務で「チャーン」と「貸倒れ」は混同されやすいですが、KPI管理上は明確に区別すべきです。チャーン:契約解約による顧客減少。貸倒れ:契約期間中の未払いによる債権損失。両者は連動することが多いものの、別指標として管理することで、解約防止施策と与信管理施策のそれぞれを適切に評価できます。
ユーザーセグメント別(業種別・規模別・契約プラン別・地域別)に貸倒率を集計することで、与信管理の精度を高められます。例えば「スタートアップ層は貸倒率5%・エンタープライズ層は0.5%」といった構造が見えれば、料金プラン設計や前金条件の差別化に活用できます。
シリーズB以降の調達では、投資家から「貸倒率の推移」「貸倒引当金繰入率の妥当性」「過去N期の貸倒損失実績」の説明を求められます。四半期ごとに貸倒率レポートを定型化し、IRデックや監査法人説明資料に組み込む体制が望まれます。
本記事で整理した実務ポイントを、貸倒れ判断のフェーズ別チェックリストに整理しました。社内の貸倒れ判断プロセスに組み込んでください。
会計上、前受収益として認識した部分のうち、すでに月割で売上計上した分は売掛金として残り、これから売上計上する予定の部分は計上前の状態です。契約解除した場合は、未消化期間分の前受収益振替を停止し、売掛金の回収可能性を改めて評価します。税理士確認推奨です。
SaaSの場合、月額継続契約では「最後の利用月」「最後の請求発行日」「契約解除日」のうち最も遅い日が起算日候補となります。実務的には契約解除日とその後の最終請求の弁済期を比較し、後者が遅い場合は最終請求弁済期から1年経過を待つことになります。具体的な認定は税理士確認推奨です。
カード決済失敗は「請求と未入金」の一形態にすぎず、通達9-6-1〜9-6-3のいずれの要件も自動的には満たしません。督促・所在確認・支払能力評価などを経て、9-6-2(事実上の貸倒れ)または9-6-3(取引停止1年経過)の要件を満たした時点で貸倒損失計上が可能になります。
消費税の貸倒れ控除を計上漏れした場合、更正の請求(法定申告期限から5年以内)により還付を求めることができます。ただし、貸倒れ事由の発生時期と更正請求の対象期間が一致している必要があるため、税理士確認推奨です。
同一地域の債務者で売掛債権総額が取立に要する旅費等の費用に満たない場合、督促後弁済がないことを要件に、備忘価額1円を残して損金経理することで貸倒損失として認められます。SaaS事業者では「地域」の解釈が難しい場合があるため、税理士確認推奨です。
SaaS事業者の場合、サービス業またはその他の事業として法定繰入率を適用するケースが一般的ですが、最終判断は税理士・所轄税務署と協議のうえ決定します。実績率を用いる場合は、過去3年間の貸倒実績を分子・分母とした計算で繰入限度を算出します。
海外法人向けのSaaS提供は、電気通信利用役務の提供として原則不課税扱いとなります。この場合、消費税を課税していないため、貸倒れ控除を受ける対象もありません。一方、消費者向けの越境SaaS(B2C)では別途規定があり、税理士確認推奨です。
ファクタリングは「将来入金予定の正常な売掛金」を買い取るサービスのため、すでに未払い状態の債権は買い取られないのが原則です。未払いになる前の売掛金、または取引先別ではなく月次売上全体を対象とする保証ファクタリングなどの活用を検討できます。SaaS事業者がファクタリングで現金化する方法については「SaaS・サブスク利用料の未払い回収方法とは?」も合わせて参照してください。
SaaS・サブスク事業の未払い仕訳と税務処理は、「滞留発生 → 督促 → 貸倒事由認定 → 計上 → 後日回収」の各フェーズで判断ポイントが異なります。本記事の重要ポイントを再整理します。
本記事は 資金繰り総研 編集部が制作したものです。資金繰り総研は中小企業・個人事業主のファクタリング業者選びを支援するメディアで、86 社の業者を公開情報・提携データをもとに比較・評価しています。
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