資本政策とは
資本政策は、会社の株式を、いつ、誰に、どれだけ、いくらで渡すかを決める計画です(用語集:資本政策)。出資を受ける、ストックオプションを出す、共同創業者に株式を持ってもらう、といった判断はすべて資本政策の一部です。
資本政策が大切な理由は3つあります。
- 後戻りしにくい:一度渡した株式を取り戻すには、相手の同意と買い戻しの資金が必要です。
- 経営の判断に直結する:持株比率は株主総会での議決権の大きさを決めます。
- 次の調達に影響する:創業者の持分が早い段階で小さくなりすぎると、次の投資家が懸念することがあります。
経済産業省の「スタートアップの成長に向けたファイナンスに関するガイダンス」も、外部投資家を受け入れすぎた場合、経営者の持分比率(議決権比率)が下がり、経営者主導の意思決定ができない、意思決定のスピードが落ちるなどの可能性があると指摘しています。
資本政策は、出資を受ける会社だけのものではありません。将来、上場や会社の売却を考えていなくても、共同創業者や役員に株式を持たせるなら、同じ考え方が必要です。出資の出し手の種類はVC・エンジェル・CVCの違いと使い分けで整理しています。
持株比率の節目(会社法で決まる議決権のライン)
持株比率の目安としてよく語られる「3分の2」「過半数」「3分の1」は、会社法の決議の要件から来ています。株主総会の決議には主に次の種類があります。
| 決議の種類 | 賛成の要件(原則) | 主な決議事項の例 |
|---|---|---|
| 普通決議 | 議決権の過半数を持つ株主が出席し、出席株主の議決権の過半数 | 取締役の選任など |
| 特別決議 | 議決権の過半数を持つ株主が出席し、出席株主の議決権の3分の2以上 | 公開会社でない会社の募集株式の発行、新株予約権の発行、定款の変更など |
普通決議は会社法第309条第1項、特別決議は同条第2項に定めがあります。定足数などは定款で一定の範囲で変えられるため、自社の定款も確認してください。
持株比率と目安
| 持株比率 | 一般的な意味 |
|---|---|
| 3分の2以上 | 単独で特別決議を成立させやすい |
| 過半数 | 単独で普通決議を成立させやすい(取締役の選任など) |
| 3分の1超 | 特別決議を単独で否決できる |
| 3%以上 | 会計帳簿の閲覧・謄写を請求できる(会社法第433条) |
| 1%以上または300個以上 | 取締役会設置会社で株主提案ができる(会社法第303条第2項) |
※出席状況や定款の定めで実際の結果は変わります。また、投資契約で重要事項に投資家の事前承諾が必要とされている場合、持株比率だけでは決められないこともあります。
この表から分かるのは、外部の株主の持分が3分の1を超えると、新株の発行や定款の変更などを単独では決められなくなるということです。資本政策では、この節目をいつ越えるかを意識しておきます。逆に言えば、節目を越えること自体が悪いわけではありません。大きく成長する会社では、創業者の持分が過半数を下回ることも珍しくないといわれます。大切なのは、越える時期と、その時点で経営の判断をどう保つかを、事前に考えておくことです。
各回の新しい投資家の持分=調達額÷(プレマネー+調達額)で計算し、既存株主は同じ割合で薄まるとしています。ストックオプションやJ-KISSの転換は含めていません。調達額を0にした回は計算しません。
計算例:3回の調達で持分はどう変わるか
創業者Aが70%、共同創業者Bが30%を持つ会社が、シード、ストックオプション枠の設定、シリーズA、シリーズBと進む例です。数字は考え方を示すための仮のものです。各段階で新たに渡す割合は、その段階の後の株式全体に対する割合です。
| 株主 | 創業時 | シード後(10%) | SO枠設定後(10%) | シリーズA後(20%) | シリーズB後(20%) |
|---|---|---|---|---|---|
| 創業者A | 70% | 63% | 56.7% | 45.36% | 36.288% |
| 共同創業者B | 30% | 27% | 24.3% | 19.44% | 15.552% |
| シード投資家 | - | 10% | 9% | 7.2% | 5.76% |
| ストックオプション枠 | - | - | 10% | 8% | 6.4% |
| シリーズA投資家 | - | - | - | 20% | 16% |
| シリーズB投資家 | - | - | - | - | 20% |
| 合計 | 100% | 100% | 100% | 100% | 100% |
計算の仕組みは、新たに渡す割合の分だけ、既存の全員の持分が同じ比率で小さくなるというものです。たとえばシード後の創業者Aは70%×(1−10%)=63%、シリーズB後は45.36%×(1−20%)=36.288%です。
この表から読み取れること
- 創業者Aは、シードの時点で単独では3分の2を下回ります(63%)。
- シリーズAの後、創業者Aは単独では過半数を下回ります(45.36%)。
- シリーズBの後でも、AとBの合計は36.288%+15.552%=51.84%で、2人あわせれば過半数を保っています。
- 外部の株主(シード・A・B投資家)の合計は、シリーズB後に5.76%+16%+20%=41.76%で、3分の1を超えています。
このように、資本政策では「創業者が単独で」「創業者チームで」「外部株主の合計で」という複数の見方で、節目を越える時期を確認します。評価額と株数の計算方法はバリュエーションと希薄化の基礎で解説しています。
資本政策表に書く項目と記入例
資本政策は、割合だけでなく株式数で管理する表(資本政策表)にしておくと、後で正確に計算できます。表には一般に次の項目を入れます。
- 時点(日付)と内容(株式の発行、株式の譲渡、ストックオプションの付与、新株予約権の発行など)
- 株主または権利者の名前
- 増える株式数(新株予約権は将来株式に変わる数)
- 1株あたりの価格(ストックオプションは行使価額)と金額
- 発行済株式の累計と、完全希薄化後の株式数の累計
- 株主ごとの持分(発行済ベースと完全希薄化後ベースの両方)
記入例(仮の数字)
| 時点 | 内容 | 増える株式数 | 1株の価格 | 金額 | 発行済株式の累計 | 完全希薄化後の累計 |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 設立 | 創業者Aに6,300株、Bに2,700株を発行 | 9,000株 | 100円 | 90万円 | 9,000株 | 9,000株 |
| シード | エンジェル投資家に株式を発行 | 1,000株 | 10,000円 | 1,000万円 | 10,000株 | 10,000株 |
| 採用時 | 従業員にストックオプションを付与 | 1,000株分 | 行使価額10,000円 | - | 10,000株 | 11,000株 |
この時点の創業者Aの持分は、発行済株式で見ると6,300株÷10,000株=63%、完全希薄化後で見ると6,300株÷11,000株=約57.3%です。シードの1株10,000円は、プレマネー9,000万円(9,000株×10,000円)、ポストマネー1億円にあたります。
このように株数と価格を記録しておくと、次の調達で投資家に説明しやすくなります。過去の株価の根拠も、あわせて残しておきましょう。表計算ソフトで十分作れますが、ストックオプションや新株予約権が増えてきたら、専門家に表の確認を頼むと安心です。
共同創業者の株式の決め方
共同創業者がいる場合、最初の株式の分け方は資本政策の出発点になります。仲のよい間柄でも、後で問題になりやすい部分です。
決めるときの考え方
- 役割と責任:誰が最終的な経営判断を担うのか。代表者が意思決定しやすい比率にしておくことが多いです。
- 今後の貢献:これまでのアイデアだけでなく、これから何年、どれだけの時間を会社に使うのか。
- 出資額:設立時に出したお金の額だけで比率を決めると、貢献とずれることがあります。
途中で離れた場合の取り決め
共同創業者が早い段階で会社を離れ、多くの株式を持ったままになると、経営に関わらない人が大株主として残ります。次の投資家が懸念する典型的な場面です。
そのため、創業者の間で「一定期間内に退任した場合、会社や他の創業者が株式を買い取れる」といった取り決めを、書面で結んでおく方法があります。期間の経過に応じて買い取れる株数を減らす設計もあります。価格の決め方や税務上の扱いも含め、専門家に相談して作りましょう。
取り決めには、一般に次のような項目を入れます。退任したときに株式を誰がいくらで買い取るか、期間に応じて買い取れる株数をどう減らすか、競合する事業を始めない約束、株式を第三者に譲るときの手続きなどです。話しにくい内容ですが、関係が良好なうちに決めておくほど、合意しやすくなります。
親族・知人からの出資
創業時に家族や知人から出資を受けることもあります。応援の気持ちはありがたいものですが、少額でも株主になると、株主総会の招集や同意の取り付けの対象になります。融資や贈与など、株式以外の形で支援を受ける方法がないかも考えましょう。
ストックオプションと資本政策
ストックオプションは、役員や従業員が、あらかじめ決めた価格で自社の株式を取得できる権利です。人材の獲得や引き留めに使われますが、行使されると株式が増え、希薄化します。経済産業省のガイダンスは、ストックオプションを多く付与しすぎると、行使後の希薄化が懸念されて上場時や上場後の株価に影響するケースがあるとし、発行済株式に占める比率や付与ルールを決めてから発行・付与することが重要だとしています。
税制適格ストックオプション
経済産業省の制度ページでは、ストックオプション税制を、権利行使時の取得株式の時価と権利行使価額との差額に対する給与所得課税を株式売却時まで繰り延べ、売却時に売却価格と権利行使価額との差額を譲渡所得として課税する制度と説明しています。適用には要件があります。同ページで確認できた近年の改正は次のとおりです。
- 令和6年度税制改正で、年間の権利行使価額の限度額が引き上げられました。設立の日以後の期間が5年未満の株式会社が付与するものは上限2,400万円/年です。
- 設立の日以後の期間が5年以上20年未満の株式会社で、非上場会社または上場の日以後の期間が5年未満の上場会社が付与するものは上限3,600万円/年です。
- 令和5年度税制改正で、設立から5年未満の非上場会社では、権利行使期間が「付与決議日後2年を経過した日から付与決議日後15年を経過する日まで」に延長されました。
- 社外の高度人材も、一定の要件のもとで対象になります。
要件は細かく、契約の内容によって適格かどうかが変わります。必ず最新の制度ページと専門家の確認のうえで設計してください。
資本政策での扱い方
計算例のように、ストックオプションの枠を先に決めておくと、将来の採用計画と希薄化を同時に考えられます。枠をどの時点で設けるかは、投資家との交渉にも関わります(評価額とストックオプション枠の関係を参照)。
種類株式と株主の構成
会社は、剰余金の配当、残余財産の分配、株主総会で議決権を行使できる事項などについて、内容の異なる2種類以上の株式を発行できます(会社法第108条)。スタートアップの調達では、投資家に優先株式などの種類株式を発行することが多いといわれます。
種類株式を使うと、たとえば会社の売却時の分配の順番や、特定の事項について種類株主総会の決議を必要とするといった設計ができます。投資家の権利が増える分、創業者の自由度に影響することもあります。持株比率だけでなく、株式の種類ごとの権利も含めて株主の構成を把握しましょう。
株主の構成で気をつけたいこと
- 株主の数:少額の株主が多いと、全員の同意が必要な手続き(たとえば株主総会の決議の省略には、議決権を持つ株主全員の書面などによる同意が必要です。会社法第319条)を進めにくくなります。
- 特定の相手への集中:1社に大きな割合が集中すると、その会社の意向に経営が左右されやすくなります。
- 出口の時期の違い:経済産業省のガイダンスは、VCは基本的に上場前から上場直後に売却する投資戦略をとるため、一般に上場後の安定株主ではないとしています。株主ごとに、いつ株式を手放す可能性があるかも考えておきます。
- 転換前の権利:新株予約権型で受けた出資は、転換するまで株主名簿に載りません。資本政策表には必ず含めます(J-KISS・新株予約権とは)。
多くの個人から出資を受ける方法の注意点は株式投資型クラウドファンディングでも解説しています。
よくある失敗
| 失敗 | 起こりがちな場面 | 影響 |
|---|---|---|
| 早期の渡しすぎ | 創業直後に、協力者や最初の投資家へ厚めに株式を渡す | 創業者の持分が早く節目を下回り、後の調達で投資家が懸念する |
| 離れた人が大株主のまま | 共同創業者や初期メンバーが退任しても、株式を持ち続ける | 経営に関わらない大株主が残り、意思決定や次の調達の妨げになる |
| 株主が多すぎる | 知人など多くの人から少額ずつ出資を受ける | 同意の取り付けや連絡に手間がかかる |
| 価格の根拠がない | 知人や従業員に、根拠のない安い価格で株式を渡す | 有利発行や税務の問題、上場審査で説明を求められる |
| ストックオプションの出しすぎ | 採用のたびに、ルールなく付与する | 行使後の希薄化が大きくなり、後の枠が足りなくなる |
| 契約条件の見落とし | 持株比率だけを見て、投資契約の承諾事項や買取請求の条項を確認しない | 持分が多くても自由に決められない、不利な条件で株式の買い取りを迫られる |
経済産業省のガイダンスには、投資契約の交渉で十分に交渉せず、経営者がVCの持分を買い取る条項を入れるなどVCに有利な契約を結び、後で変更に苦労したという上場企業のCEOの声も紹介されています。公正取引委員会と経済産業省の「スタートアップとの事業連携及びスタートアップへの出資に関する指針」は、株式の買取請求権を定める場合でも、請求対象から経営株主等の個人を除いていくことが競争政策上望ましいとしています。
資本政策の作り方(5つのステップ)
- 事業計画を置く:いつまでに何を達成し、そのためにいくら必要かを整理します(事業計画の数字の作り方も参照)。経済産業省のガイダンスも、資本政策を作る前提として事業計画を作ることを挙げています。
- 調達の回数と金額を仮置きする:シード、シリーズAなど、数回先までの調達額と、各回で渡す割合の目安を置きます。調達の進め方は資金調達ラウンドの流れを参照してください。
- 表で試算する:計算例のような表を作り、株主ごとの持分が各段階でどうなるかを確認します。株式数で管理し、ストックオプションや新株予約権も含めた完全希薄化後の数字も出します。
- 節目を確認する:創業者単独、創業者チーム、外部株主の合計で、3分の2、過半数、3分の1をいつ越えるかを見ます。
- 定期的に見直す:調達のたびに、実際の数字で表を更新します。予定どおりに進まない前提で、別の案も用意しておきます。
株式以外の手段も並べて考える
すべての資金を株式で集める必要はありません。返済の見通しが立つ運転資金や設備資金は、融資のほうが合うこともあります。持分を渡さずに資金を得られれば、資本政策の自由度も保てます。考え方は出資と融資の違いと組み合わせ方、融資の全体像は融資・デットのまとめをご覧ください。
専門家に相談したいこと
資本政策は、会社法、税務、投資契約が重なる分野です。次のような場面では、スタートアップに詳しい弁護士、税理士、公認会計士、司法書士などに早めに相談しましょう。
- 設立時や共同創業者が加わるときの株式の配分と、退任時の取り決め
- 最初の外部出資を受ける前の資本政策表の作成
- ストックオプションの設計と、税制適格の要件の確認
- 種類株式の内容や投資契約の条項の確認
- 知人や役員への株式の譲渡・発行の価格の決め方
向いていない考え方
「とりあえず出資を受けて、資本政策は後で考える」という進め方はおすすめできません。また、大きな成長を目指さず、経営の自由を最優先したい会社では、外部株主を入れないこと自体が合理的な資本政策になることもあります。自社にどの手段が合うかは比較・診断でも確認できます。迷う場合は無料相談もご利用ください。
資本政策を決める前のチェックリスト
株式を渡す前に、次の項目を確認しておきましょう。
- 現状の把握:株主名簿と、発行済みの新株予約権・ストックオプションを一覧にしたか。
- 完全希薄化後の数:新株予約権などがすべて株式になった場合の株式数で計算しているか。
- 持分の推移:今回と2〜3回先の調達後に、創業者の持分がどう変わるかを表にしたか。
- 議決権の節目:3分の2・過半数・3分の1の節目を、いつ越えることになるかを確認したか。
- 共同創業者:途中で離れた場合の株式の扱いを、書面で取り決めたか。
- ストックオプションの枠:今後の採用を見込んだ枠を、あらかじめ資本政策表に入れたか。
- 株価の根拠:知人・役員・従業員に株式を渡す場合、価格の根拠を記録しているか。
- 株主の数:少額の株主が増えすぎないか、全員の同意が必要な手続きへの影響を考えたか。
- 種類株式:優先株式などを発行する場合、株式の種類ごとの権利を把握しているか。
- 契約の条件:投資契約の承諾事項や買取請求の条項が、持分の多さに関係なく効くことを確認したか。
- 専門家の確認:有利発行や税務の扱いを、弁護士・税理士などに確認したか。
従業員への付与の考え方はストックオプションの基礎、身近な人から出資を受ける場合は家族・友人からの出資の注意点もあわせてご覧ください。
よくある質問
資本政策とは何ですか?
創業者は何%持っていればよいですか?
一度渡した株式は取り戻せますか?
資本政策はいつ作ればよいですか?
ストックオプションはどれくらい出してよいですか?
税制適格ストックオプションの年間上限はいくらですか?
株主が多いと何が困りますか?
- e-Gov法令検索「会社法」第108条・第303条・第309条・第319条・第433条 https://laws.e-gov.go.jp/law/417AC0000000086(2026年10月確認)
- 経済産業省「スタートアップの成長に向けたファイナンスに関するガイダンス」(2022年4月) https://www.meti.go.jp/policy/newbusiness/houkokusyo/financeguidance.pdf(2026年10月確認)
- 経済産業省「ストックオプション税制」 https://www.meti.go.jp/policy/newbusiness/stock-option.html(2026年10月確認)
- 公正取引委員会「スタートアップとの事業連携及びスタートアップへの出資に関する指針」(概要) https://www.jftc.go.jp/dk/startup/220331_su_guideline.pdf(2026年10月確認)
本記事は一般的な情報提供で、特定の金融商品の勧誘を目的とするものではありません。条件は事業者や状況により異なります。契約の内容は、専門家にご確認ください。