種類株式・優先株式とは
株式会社の株主は、原則として、剰余金の配当を受ける権利、残余財産の分配を受ける権利、株主総会の議決権などを持ちます(会社法第105条第1項)。そして会社は、株主をその持つ株式の内容と数に応じて平等に扱う必要があります(同法第109条第1項)。
一方で会社法は、一定の事項について内容の異なる2種類以上の株式を発行することを認めています(同法第108条第1項)。これが種類株式です。スタートアップの出資で使われる「優先株式」は、残余財産の分配などで普通株式より有利な内容を定めた種類株式を、一般にこう呼んでいるものです。法律上「優先株式」という名前の特別な株式があるわけではありません。
投資家が優先株式を求める主な理由は、出資額に比べて会社の価値が想定より伸びなかったときに、損失を抑えるためです。創業者は会社の経営に関わり続けますが、投資家は外から資金を出すだけなので、その違いを条件で調整する、という考え方です。
種類株式を発行するには、各種類の内容と発行可能種類株式総数を定款で定める必要があります(同法第108条第2項)。定款の変更は株主総会の特別決議で行い(同法第466条、第309条第2項第11号)、種類株式の内容は登記されます(同法第911条第3項第7号)。手続きの流れは株主総会・払込・登記の手続きで解説しています。
普通株式と優先株式の主な違い
| 比較軸 | 普通株式 | スタートアップの優先株式(一般的な設計) |
|---|---|---|
| 主な持ち主 | 創業者、従業員、エンジェル投資家など | ベンチャーキャピタルなどの投資家 |
| 残余財産・売却代金の分配 | 持分に応じて分配 | 出資額の一定倍を先に受け取る定めがあることが多い |
| 議決権 | あり | 普通株式と同じく持たせる設計が多い |
| 特定の事項への関与 | 通常の株主総会の決議で決まる | 種類株主総会の決議(拒否権)を必要とする定めがあることも |
| 株価が下がる調達への備え | 特になし | 希薄化防止の定めがあることが多い |
| 上場時 | そのまま | 普通株式に転換されるのが一般的 |
同じ会社の株式でも、種類が違えば1株あたりの価値も違います。優先株式の1株の価格を、そのまま普通株式の1株の価値と考えないよう注意しましょう。
残余財産の優先分配:倍率と参加型・非参加型
残余財産の優先分配は、会社を清算するとき、残った財産から優先株主が先に一定額を受け取る権利です。会社法は、種類ごとに「交付する残余財産の価額の決定の方法」などを定款で定めるよう求めています(会社法第108条第2項第2号)。実務では次の2つの軸で条件が決まることが一般的です。
軸1:倍率(何倍を優先するか)
「出資額の1倍」を優先して受け取る設計がよく見られます。倍率が高いほど、投資家が先に受け取る金額が増え、普通株主に残る金額は減ります。
軸2:参加型か非参加型か
| 型 | 仕組み | 創業者から見た影響 |
|---|---|---|
| 非参加型 | 優先分を受け取って終わり。ただし普通株式に転換して持分どおり受け取るほうが多ければ、そちらを選べる設計が多い | 売却額が大きいと、投資家は持分どおりの受け取りになる |
| 参加型 | 優先分を受け取ったうえで、残りの財産からも持分に応じて分配を受ける | 売却額が大きくても、優先分の分だけ普通株主の取り分が減り続ける |
| 上限付き参加型 | 参加型だが、受け取る総額に上限がある | 参加型と非参加型の中間 |
複数回の調達で種類株式が増えると、どの回の株主から先に受け取るかという優先順位も決める必要があります。条件は回ごとに積み重なるので、全体を一覧にしておきましょう。
優先配当について
剰余金の配当で優先する定め(会社法第108条第1項第1号)が置かれることもあります。成長段階のスタートアップは配当をしないことが多いため、実際に影響する場面は限られます。ただし、支払われなかった優先配当が翌年以降に持ち越される「累積型」の定めがあると、後で分配するときに優先分が膨らむことがあります。累積するかどうかは確認しておきましょう。
なお、会社が配当などで株主に交付できる金額には、分配可能額による上限があります(同法第461条)。優先配当の定めがあっても、上限を超えて支払うことはできません。
計算例:会社を売却したときの分配
考え方を理解するための仮の数字で計算します。実際の契約では、分配の順位や端数の扱いがより細かく決められています。
前提
- 投資家が2億円を出資し、優先株式で持分20%(ポストマネー10億円)
- 残り80%は創業者の普通株式
- 優先分配は出資額の1倍。会社売却はみなし清算の対象
- 非参加型は「優先分か、普通株式に転換して持分どおりか」の多いほうを選べるものとする
売却額ごとの投資家の受取額
| 売却額 | 非参加型の投資家 | 非参加型の創業者 | 参加型の投資家 | 参加型の創業者 |
|---|---|---|---|---|
| 1.5億円 | 1.5億円(全額。優先分2億円に届かない) | 0円 | 1.5億円 | 0円 |
| 5億円 | 2億円(優先分。転換すると1億円) | 3億円 | 2億円+(5億円−2億円)×20%=2.6億円 | 2.4億円 |
| 8億円 | 2億円(優先分。転換すると1.6億円) | 6億円 | 2億円+(8億円−2億円)×20%=3.2億円 | 4.8億円 |
| 20億円 | 4億円(転換して20%) | 16億円 | 2億円+(20億円−2億円)×20%=5.6億円 | 14.4億円 |
非参加型では、売却額が10億円(2億円÷20%)を超えると、優先分より転換したほうが多くなります。つまり売却額が出資時のポストマネー評価額を下回る場面で、優先分配が効いてきます。
参加型では、売却額が大きくなっても投資家の取り分が持分の20%を上回り続けます。20億円で売却した場合、非参加型との差は1.6億円で、その分だけ創業者の取り分が減ります。
検算:各行で投資家と創業者の合計が売却額と一致することを確かめてください(例:5億円の参加型は2.6億円+2.4億円=5億円)。実際には従業員のストックオプションや複数の種類株式があるため、全員分の表を作って確認します。
みなし清算条項とは
会社法の残余財産の分配は、会社を解散・清算するときのルールです。ところがスタートアップの多くは、清算ではなく、株式を売却する形の買収(M&A)で出口を迎えます。株式の売却では、売却代金は会社ではなく各株主に直接支払われるため、そのままでは定款の残余財産の優先分配は働きません。
そこで、合併や株式の売却、事業の譲渡などを「清算とみなし」、受け取った代金を優先分配のルールに従って株主の間で分けるよう約束するのが、みなし清算条項です。定款に定めるほか、株主間契約で株主同士が約束する形がとられることが多いです。
確認したいポイント
- 対象となる取引:合併、株式交換、過半数の株式の譲渡、事業の全部または重要な一部の譲渡など、どこまでが対象か。
- 分配の計算方法:優先分の倍率、参加の有無、複数の種類株式の優先順位。
- 契約の当事者:株主間契約の場合、契約に入っていない株主には効力が及ばないため、誰が当事者かを確認する。
- 定款との整合:定款の残余財産の定めと、契約上の分配の定めが食い違っていないか。
みなし清算は、売却額が出資時の評価額を大きく下回るときに、創業者や従業員の取り分に大きく影響します。売却額を何通りか置いて、上の計算例のような表を作っておきましょう。
また、買い手が売却代金の一部を後払いにしたり、業績に応じて追加で支払ったりする条件をつけることもあります。こうした代金をどの時点で、どの順位で分けるかも、みなし清算の定めで問題になります。売却の話が具体的になった段階で、改めて専門家と分配の計算を確認しましょう。
希薄化防止条項と計算例
希薄化防止条項は、後の調達で前回より低い株価で株式が発行されたとき、優先株主が普通株式に転換するときの価格(転換価格)を引き下げる仕組みです。引き下げにより、転換で受け取る普通株式の数が増え、株価下落の影響を和らげます。調整の方法は大きく2つあります。
- フルラチェット:転換価格を、新しい発行価格まで全面的に引き下げる。
- 加重平均:新しく発行した株式の数や金額を加味して、引き下げ幅を調整する。一般に、新しい転換価格=元の転換価格×(A+B)÷(A+C)という形の式が使われます。Aは発行前の株式数、Bは調達額を元の価格で割った株式数、Cは実際に発行した株式数です。
前提
- 発行前の株式:創業者8,000株、シリーズAの優先株式2,000株(1株100,000円で2億円)、合計10,000株
- 次の調達で、1株50,000円で1億円を調達し、新株2,000株を発行(いわゆるダウンラウンド)
| 方法 | 転換価格 | シリーズAの転換後株式 | 持分(創業者/シリーズA/新投資家) |
|---|---|---|---|
| 調整なし | 100,000円 | 2,000株 | 約66.7%/約16.7%/約16.7% |
| 加重平均 | 100,000円×(10,000+1,000)÷(10,000+2,000)=約91,667円 | 2億円÷約91,667円=約2,182株 | 約65.7%/約17.9%/約16.4% |
| フルラチェット | 50,000円 | 2億円÷50,000円=4,000株 | 約57.1%/約28.6%/約14.3% |
加重平均のBは1億円÷100,000円=1,000株、Cは2,000株です。持分は、加重平均で合計約12,182株、フルラチェットで合計14,000株を分母にしています。フルラチェットでは、創業者の持分が約9.5ポイント下がります。株価が下がる調達の影響は大きいので、調整方法は早い段階で確認しましょう。ダウンラウンドについては調達がうまくいかないとき・ダウンラウンドで解説しています。
拒否権(種類株主総会)と転換の条件
拒否権
会社法第108条第1項第8号の種類株式を発行すると、定款で定めた事項について、通常の株主総会や取締役会の決議のほかに、その種類株主総会の決議が必要になります(同法第323条)。一般に「拒否権」と呼ばれるものです。種類株主総会の決議は、定款に別段の定めがなければ、その種類の株主の議決権の過半数を持つ株主が出席し、出席した株主の議決権の過半数で行います(同法第324条第1項)。
このほか、種類株式発行会社では、株式の種類の追加や内容の変更、株式の分割・併合、合併など一定の行為が、ある種類の株主に損害を及ぼすおそれがあるとき、その種類株主総会の決議が必要になります(同法第322条第1項)。定款で、この決議を要しないと定めることもできますが、種類株式の発行後にこの定めを設けるには、その種類の株主全員の同意が必要です(同法第322条第2項・第4項)。
普通株式への転換
優先株式は、上場の前に普通株式に転換されるのが一般的です。転換の仕組みとして、株主が会社に取得を求める取得請求権(同法第108条第1項第5号)と、一定の事由が生じたときに会社が取得する取得条項(同項第6号)が使われます。上場申請などを事由とする自動転換の定めがあるか、転換比率がどう決まるかを確認しておきましょう。
転換比率は、希薄化防止の調整を受けて変わることがあります。株式の分割や併合をしたときの調整方法も定められていることが多いので、上の計算例とあわせて確認すると全体の動きがつかめます。
拒否権や転換の条件は、日々の経営では意識しにくい条項です。取締役会や株主総会の議題を決めるときに、種類株主総会の決議が必要な事項に当たらないかを確認する手順を、社内で決めておくと安心です。会社法は、必要な種類株主総会の決議がない行為について、効力を生じないと定めています(同法第322条第1項、第323条)。
条件を検討・交渉するときの考え方
優先株式の条件は、投資家ごと、案件ごとに異なります。「よくある条件だから」と説明されても、自社にとっての影響は数字で確かめるしかありません。検討の手順は次のとおりです。
- 条件を一覧にする:倍率、参加の有無、優先順位、みなし清算の範囲、希薄化防止の方法、拒否権の対象、転換の条件を1枚にまとめます。
- 出口の場面を置く:ポストマネー評価額の半分、同じ額、数倍の3通り以上の売却額を置きます。
- 全株主の受取額を計算する:創業者、従業員(ストックオプション)、各回の投資家ごとに受取額を出し、合計が売却額と一致するか検算します。
- 株価が下がる調達も置く:前回の半分程度の株価で調達した場合の持分を、希薄化防止の調整込みで計算します。
- 気になる点を代案にする:参加型なら上限を設ける、拒否権なら対象を絞る、希薄化防止なら加重平均にする、といった具体的な案にして相談します。
また、今回の条件は次の調達の「前例」になります。次の投資家は、少なくとも前回と同じかそれ以上の条件を求めることが多いため、今回重い条件を受け入れると、回を重ねるごとに普通株主の取り分が圧迫されやすくなります。目先の評価額だけでなく、数回先の調達まで見通して判断しましょう。
条件を変えてほしいときは、理由を数字で示すと話が進みやすくなります。たとえば「この売却額では従業員の取り分がほぼなくなり、採用や引き留めに支障が出る」といった説明は、投資家にとっても会社の価値に関わる論点です。
優先株式の条件のチェックリスト
種類株式の条件を受け入れる前に、次の項目を確認しましょう。
- どの事項(会社法第108条第1項の何号)について普通株式と違いを設けるのかを一覧にした
- 優先分配の倍率を確認した
- 参加型か非参加型か、上限の有無を確認した
- 複数の種類株式の間の優先順位を確認した
- みなし清算の対象となる取引の範囲を確認した
- みなし清算を定める契約に、どの株主が入っているかを確認した
- 売却額を3通り以上置き、全株主の受取額の表を作って検算した
- 希薄化防止の調整方法(フルラチェットか加重平均か)と、適用されない例外を確認した
- 拒否権の対象となる事項を一覧にし、日常の経営判断が入っていないか確認した
- 普通株式への転換の条件(取得請求権・取得条項・転換比率)を確認した
- 定款変更案と株主間契約の内容が食い違っていないか照合した
- 弁護士など専門家に、定款変更案と契約を確認してもらった
よくある失敗の型と防ぎ方
| 失敗の型 | 起きやすい理由 | 防ぎ方 |
|---|---|---|
| 評価額だけ見て、優先分配の条件を見落としてしまう | 上場など大きな成功の場面しか想定しない | ポストマネー評価額を下回る売却額でも分配を試算する |
| 参加型の重さに気づかない | 「1倍」という倍率だけで判断する | 参加型と非参加型の両方で表を作り、差額を確認する |
| 回を重ねるごとに優先条件が積み重なり、全体像を失ってしまう | 回ごとに別々の書類で管理している | 全種類株式の条件と優先順位を1枚の表にまとめて更新する |
| 希薄化防止の調整方法を確認せず、ダウンラウンドで持分が大きく減ってしまう | 株価が下がる場面を想定していない | 前回の半分程度の株価で調達した場合の持分を試算する |
| 拒否権の対象が広く、次の調達や採用の判断が遅れてしまう | 対象事項を具体的な場面に当てはめていない | 1年間に想定される経営判断を書き出し、対象に入るか照合する |
| 定款と株主間契約の内容がずれたままになる | 作成者や時期が違い、照合しない | 条項ごとに対応表を作り、払込前に専門家と照合する |
創業者が考えておきたいこと
優先株式の条件は、出資を受ける時点では実感しにくく、会社の売却や株価が下がる調達の場面で初めて重さがわかる、という性質があります。次のような会社では、とくに慎重に検討しましょう。
- 上場より、事業会社への売却が出口として現実的な会社
- 事業が軌道に乗るまで時間がかかり、追加の調達が複数回必要になりそうな会社
- 従業員にストックオプションを広く付与しており、売却時の従業員の取り分も大切にしたい会社
また、優先株式の設計は、評価額とも関係します。評価額を高くしてもらう代わりに、優先分配の条件が重くなることもあります。評価額の数字だけで比べず、条件全体で比べることが大切です。複数の投資家から条件が届いた場合も、評価額、優先分配の倍率と参加の有無、希薄化防止の方法、拒否権の範囲を同じ表に並べ、売却額ごとの創業者の受取額で比べると、違いがはっきりします。考え方はバリュエーションと希薄化の基礎、持分の長期的な設計は資本政策の基礎を参考にしてください。タームシート全体の読み方はタームシート・投資契約の読み方で解説しています。
よくある質問
優先株式は法律で決まった株式ですか?
優先株式を発行するには何が必要ですか?
参加型と非参加型はどちらが創業者に有利ですか?
みなし清算条項はなぜ必要なのですか?
希薄化防止条項はいつ効いてきますか?
拒否権があると、何でも投資家の同意が必要になりますか?
優先株式は上場後も残りますか?
- e-Gov法令検索「会社法」第105条・第108条・第109条・第309条・第322条・第323条・第324条・第461条・第466条・第911条 https://laws.e-gov.go.jp/law/417AC0000000086(2026年10月確認)
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