IT・Web制作の会社は、なぜお金が足りなくなりやすいの?
IT・Web制作の仕事は、材料を仕入れることはほとんどありません。そのかわり、費用の大部分が人件費と外注費です。エンジニアやデザイナーの給料は毎月決まった日に払う必要があり、仕事が終わるまで待ってはもらえません。
一方で、受託の仕事の入金は、一般的に次のような流れになります。
- 契約して開発・制作を始める
- 数週間〜数か月かけて作る
- 納品して、取引先が確認する(検収)
- 検収が終わってから請求し、締め日の後に入金される
つまり、開発の期間中ずっと、人件費を立て替えていることになります。大きな案件ほど期間が長く、立替も大きくなります。さらに、仕様の変更や確認の遅れで検収が延びると、入金もそのまま後ろにずれます。
SaaSなどの継続課金の事業では、事情が少し違います。毎月の売上は少しずつ積み上がりますが、開発や営業の費用は最初に大きくかかります。そのため、売上が費用を上回るまでの間は赤字が続くのが一般的です。この期間をどう乗り切るかが、資金繰りの大きな課題になります。
どちらの場合も、工場や在庫のような担保になる資産が少ないため、「担保がなくて借りにくい」と感じる会社が多いのも特徴です。
受託開発・Web制作なら、どの方法が向いている?
受託の仕事が中心の会社は、まず人件費の立替を融資でまかなうのが基本です。
- 日本政策金融公庫:担保が少ない会社や創業間もない会社でも相談しやすい手段です。
- 制度融資:信用保証協会の保証付きで、運転資金を借りやすくなります。
- 銀行のプロパー融資:黒字が続き、取引実績がある会社なら、必要なときに使える枠を作れることもあります。
融資の相談では、受注している案件の一覧(取引先・金額・納期・入金予定)を見せると、立替の必要性と返済の元手を説明しやすくなります。
検収が終わって請求が確定した代金がある場合は、ファクタリングで入金日より前に資金化する方法もあります。IT業界の取引先は会社であることが多く、ファクタリングの対象になりやすい売掛金です。ただし手数料は融資より高めなので、毎月使い続けると利益を圧迫します。融資が間に合わないときのつなぎと考えましょう。
外注先への支払いが重い場合は、請求書カード払いで引き落としを先へ延ばせることもあります。
SaaS・継続課金の事業なら、どう考えればいい?
SaaSなど、毎月お客さまから利用料をいただく事業では、毎月の安定した売上そのものが強みになります。
継続課金の売上を担保にする
将来債権の担保化は、これから入ってくる継続課金の売上を担保にして借りる方法です。目安として、継続課金の月商の6〜18か月分程度が対象になります。解約が少なく、売上が安定しているほど評価されやすい傾向があります。決算が赤字でも、売上の積み上がりを評価してもらえる可能性があります。
急成長を目指すなら、出資も選択肢
広告や開発に大きく投資して一気に成長を目指す場合は、出資(エクイティ)を受けることが多いです。目安として、シードで1,000万〜5,000万円、シリーズA以降で数億円です(事業による)。返済は不要ですが、株を渡すため、経営の決め方にも影響します。出資と融資の違いも確認しておきましょう。
出資を受けた後のつなぎには、ベンチャーデット
VCから出資を受けた会社なら、ベンチャーデット(成長企業向けの借入れ)も候補です。次の出資までの期間を延ばしたり、株を手放す量を抑えたりするのに使われます。
どの方法でも、月ごとの継続課金の売上、解約率(やめた人の割合)、お客さま1人あたりの売上を毎月記録しておくことが大切です。
大きな案件を受ける前に、何を確認すればいい?
大型の受託案件は売上が大きい一方で、立替の期間も長くなります。受ける前に、次の点を確認しておくと安心です。
- 開発期間中の人件費・外注費の合計:月ごとにいくら出ていくかを書き出します。
- 支払いの条件:着手金や中間金があるか、検収の後にいつ入金されるかを確認します。
- 検収が遅れたときの影響:1〜2か月遅れても資金が足りるかを試算します。
- ほかの案件との重なり:同じ時期に複数の案件が重なると、立替がさらに増えます。
足りない金額が分かったら、足りなくなる月の2〜3か月前に金融機関へ相談を始めましょう。必要な運転資金の考え方は必要運転資金の計算ページ、計画の立て方は資金調達計画のページも参考になります。
契約の段階で、着手金や、工程ごとに分けた支払いを取り決めておくと、立替を大きく減らせます。長い案件ほど、交渉する価値があります。
融資の相談では、IT企業のどこを見られるの?
形のある資産が少ないIT企業の場合、融資の相談ではこれから入ってくるお金の確かさと人にかかる費用の重さがよく見られます。一般的には、次のような点です。
- 取引先の顔ぶれ:特定の1社に売上が偏っていないか。継続して仕事をもらえている相手か。
- 受注の見込み:契約済みの案件と、話が進んでいる案件がどれくらいあるか。
- 人件費と売上のつり合い:社員や外注の費用が、売上に比べて重すぎないか。
- 継続課金の売上の伸び:SaaSなら、毎月の売上が順調に積み上がっているか、解約が多すぎないか。
「〇〇社の開発案件で、納品・検収までの4か月分の人件費として借りたい」(例)のように、使い道と返済の元手をセットで説明できると、審査する側も判断しやすくなります。業界の専門用語は、金融機関の担当者にも分かる言葉に置き換えて説明しましょう。
日ごろからできる、資金繰りを楽にする工夫は?
- 検収の条件を契約で決めておく:いつまでに確認してもらうか、確認がない場合はどう扱うかを決めておくと、入金の遅れを防ぎやすくなります。契約の内容は専門家に確認してください。
- 保守・運用の月額の仕事を増やす:納品後の保守や運用を月額で受けると、毎月の安定した入金になります。
- 人を増やす前に資金繰りを確認する:採用すると人件費は毎月続きます。案件が途切れたときにも払えるかを確かめましょう。
- 年払いのプランを用意する:SaaSでは、年間分を前払いでいただくプランを用意すると、手元のお金が厚くなります。
- 補助金の情報を集める:IT関連の補助金が使える場合もあります。原則後払いなので、つなぎの資金は別に用意します。詳しくは補助金のページへ。
担保が少ないIT企業では、決算書と月ごとの数字がそのまま信用になります。売上の内訳、取引先の一覧、受注の見込みを整理しておくと、融資でも出資でも話が進みやすくなります。
準備しておきたい書類・数字
- 直近2〜3期分の決算書と月次の試算表
- 受注している案件の一覧(取引先・金額・納期・入金予定)
- 毎月の人件費・外注費の一覧
- 継続課金の売上の推移と解約率(SaaSの場合)
- 取引先ごとの締め日・支払日
- 事業計画書と資金繰り表
受託中心から継続課金の事業へ移るときは、資金の考え方が大きく変わります。売上の積み上がり方に合わせて、融資・将来債権の担保化・出資のどれを使うかを見直しましょう。
よくある質問
担保がないIT企業でも融資を受けられますか?
検収前の代金でもファクタリングできますか?
SaaSの赤字の時期は、融資と出資のどちらがよいですか?
年払いのプランで受け取ったお金は、自由に使ってよいですか?
- 日本政策金融公庫 融資制度の案内
- 全国信用保証協会連合会 信用保証制度の概要
- 中小企業庁 中小企業向け資金繰り支援・補助金の案内
本ページは一般的な情報提供です。金額・条件は目安で、実際は各金融機関・事業者の審査で決まります。法律・税務は専門家にご確認ください。