IPOとM&Aでは、資金面の準備はどう違う?
スタートアップの出口(投資家が投資したお金を回収する方法)には、主にIPO(株式を証券取引所に上場すること)とM&A(会社をほかの会社に売却すること)があります。どちらを目指すかで、資金面の準備も変わります。
| 比べる点 | IPO | M&A |
|---|---|---|
| 誰が会社を見るか | 証券会社・証券取引所・監査法人 | 買い手の会社とその専門家 |
| 主に見られる点 | 管理体制、会計の正しさ、継続して事業を続けられるか | 事業の価値、借入や契約に隠れた問題がないか |
| 資金面の課題 | 準備期間の費用と、それを支える手元資金 | 借入や投資契約が売却の妨げにならないか |
共通して言えるのは、これまでの資金調達の記録がすべて確認されることです。誰からいくら集めたか、どんな条件の契約を結んだか、借入の担保や保証はどうなっているか。記録が整理されていないと、準備に時間がかかります。まずは、出資・借入・新株予約権の契約書を1か所にまとめ、一覧にしておきましょう。
上場準備の期間には、どんなお金がかかる?
上場を目指す場合、準備期間には事業以外の費用が増えます。主なものは次のとおりです。
- 監査の費用:上場の申請には、監査法人による監査を受けた決算が求められます。監査を受け始める前に、会計の処理を見直す作業が必要になることもあります。
- 証券会社とのやり取り:上場の手続きを中心になって支える証券会社(主幹事証券)の審査に対応します。
- 管理部門の強化:経理、法務、労務などの担当者の採用や、外部の専門家への依頼が増えます。
- 内部管理の体制づくり:社内の決まりの整備、業務の手順、承認の流れなどを作ります。
- システムの導入:会計や勤怠、契約の管理などのシステムを整えます。
費用の額は会社の規模や準備の状況で大きく変わるため、このページでは具体的な金額は示しません。監査法人や証券会社と早めに話し、見積もりを取ったうえで、準備期間の資金繰り表に組み込みましょう。
注意したいのは、準備期間が予定より延びることがある点です。審査の過程で課題が見つかると、上場の時期が後ろにずれます。資金繰りは、上場が遅れた場合でも事業を続けられるよう、余裕を持って計画してください。
上場前の出資(プレIPO)で、気をつけることは?
上場の直前に受ける出資をプレIPOと呼ぶことがあります。管理体制づくりや成長投資の資金を集める目的で行われます。
この段階で特に意識したいのが資本政策(誰に、いつ、どれだけ株を渡すかの計画)です。上場後は、株を売買する市場の評価によって株価が決まります。上場前の出資の株価が、上場後の評価と比べて高すぎると、出資した投資家が損をすることになり、関係が難しくなります。反対に低すぎると、必要以上に株を渡すことになります。
このほか、次の点も確認しておきましょう。
- 上場前の株の移動:上場の直前に株を渡したり譲ったりした場合、その経緯や株価の決め方について説明を求められることがあります。
- ストックオプション:社員や役員に渡したストックオプションの数や条件が、資本政策と合っているか。
- 優先株式の扱い:上場の際、優先株式を普通株式に切り替える手続きが必要になることがあります。
- 株主の構成:反社会的勢力との関係がないかなど、株主について確認されます。
上場の審査の基準や手続きは証券取引所の規則によるため、主幹事証券や専門家に確認しながら進めてください。
M&Aを考えるとき、借入や契約はどう見られる?
会社の売却では、買い手がデューデリジェンス(買う前に会社の中身を詳しく調べること)を行います。資金調達に関係して、よく確認されるのは次の点です。
- 支配権の変更に関する条項:会社の株主が変わったときに、貸し手が一括返済を求められる、取引先が契約を解除できる、といった取り決めです。借入や重要な取引の契約に入っていないか確認しましょう。
- 経営者の個人保証:創業者が借入の保証人になっている場合、売却後に保証をどう外すかが課題になります。
- 新株予約権:ベンチャーデットやJ-KISSなどで発行した新株予約権が残っていると、売却の価格の分け方に影響します。
- 優先株式の優先分配:売却額が投資家に先に分配され、普通株を持つ創業者や社員の受け取りが想定より少なくなることがあります。
こうした点は、売却の交渉が始まってから見つかると、価格の引き下げや交渉の中断につながることがあります。売却を考え始めた段階で、既存の契約を見直しておくと安心です。法律や税務の扱いは、M&Aに詳しい専門家に確認してください。
準備期間の資金繰りで、避けたいことは?
IPOでもM&Aでも、準備期間の資金繰りは「安定しているか」が見られます。次のような状態は、説明が求められやすくなります。
- 高いコストの短期資金に頼る:ファクタリング(2社間で手数料5〜20%程度)やビジネスローン(年8〜18%程度)を繰り返し使っていると、資金繰りの不安と見られることがあります。
- 役員や関係者との貸し借り:社長個人や関係会社とのお金の貸し借りは、整理しておくことが求められやすい点です。
- 記録のない入出金:契約書のない借入や、使い道の分からない支出は、調査で確認の対象になります。
準備期間に入ったら、月次の決算を早く正確に締めることを習慣にしましょう。資金繰り表と実績を毎月比べ、ずれの理由を説明できるようにしておくと、審査や買い手の調査にも対応しやすくなります。資金の組み立てに迷ったら、資金調達計画の立て方も参考にしてください。
上場や売却が予定より遅れたら、資金はどうする?
上場の時期や売却の交渉は、会社の都合だけでは決まりません。審査で課題が見つかる、市場の状況が変わる、買い手との条件が合わない、といった理由で、予定が後ろにずれることがあります。そのとき手元資金が足りないと、不利な条件での資金調達を迫られます。
遅れに備えて、次の準備をしておきましょう。
- 遅れた場合の資金繰り表を作る:予定どおりの場合だけでなく、時期がずれた場合でも事業を続けられるかを確認します。
- 銀行との取引を保っておく:上場や売却を前提にせず、通常の運転資金を借りられる関係を作っておくと、つなぎの資金を相談しやすくなります。
- 既存の投資家と話しておく:遅れた場合に追加の出資を相談できるか、事前に考えを聞いておきます。
- 費用の優先順位を決める:準備の費用と事業の投資のうち、何を先に削るかを決めておきます。
出口の時期を急ぐあまり、高いコストの資金で無理につなぐと、かえって審査や交渉で不利になることがあります。余裕を持った計画が、結果として出口への近道になります。
準備しておきたい書類・数字
- これまでの出資・借入・新株予約権の契約書の一覧
- 資本政策表(ストックオプション・優先株式を含む)
- 既存の借入の一覧(担保・保証・支配権の変更に関する条項)
- 役員・関係会社との取引の一覧
- 直近の決算書と月次の試算表
- 上場準備・売却準備の費用の見積もり
- 上場や売却が遅れた場合を含む資金繰り表
上場や売却が決まったあとも、資金の管理は続きます。上場後は市場からの調達や開示の義務が加わり、売却後は買い手の方針に沿った資金管理に変わります。それぞれの段階で、借入の条件と資金繰りの体制を改めて見直しましょう。
よくある質問
上場準備には、どのくらいの期間がかかりますか?
上場前に借入があると、審査で不利になりますか?
会社を売却すると、借入はどうなりますか?
上場前の出資の株価は、どう決めればいいですか?
- 日本取引所グループ 上場審査に関する規則・ガイドブック
- 全国信用保証協会連合会 信用保証制度の概要
- 中小企業庁「中小M&Aガイドライン」
- 経済産業省「スタートアップ育成5か年計画」
本ページは一般的な情報提供です。金額・条件は目安で、実際は各金融機関・事業者の審査で決まります。法律・税務は専門家にご確認ください。