シリーズAでは、投資家に何を見られる?
シリーズAとは、プロダクトが顧客に受け入れられ、売上が伸び始めた段階で受ける本格的な出資を指します。シードのときは「アイデアとチーム」が中心でしたが、シリーズAでは伸びるしくみが本当にあるかが問われます。
投資家がよく確認するのは、次のような点です。
- 成長の速さ:売上や顧客数が、月ごと・四半期ごとにどう伸びているか。
- 再現性:同じやり方で顧客を増やし続けられるか。特定の人脈や一度きりの大口案件に頼っていないか。
- 顧客1人あたりの採算:1人の顧客を得るのにかかる費用と、その顧客から得られる売上の関係。広告費をかけるほど赤字が増える形になっていないか。
- 継続率:顧客がどれだけ使い続けているか。解約が多いと、成長しても売上が残りません。
- 資金の使い道:集めたお金を何に使い、次の段階までにどんな数字を達成するのか。
これらの数字は、口で説明するより、月ごとの推移を表やグラフで示すほうが伝わります。数字の定義(何を「顧客」と数えるかなど)をそろえておくことも大切です。定義が途中で変わると、投資家に不信感を持たれる原因になります。
リード投資家と契約条件は、どう決まる?
シリーズAでは、複数の投資家が一緒に出資することが多くなります。その中で、株価や条件をまとめる中心の投資家をリード投資家と呼びます。リード投資家が決まると、ほかの投資家も参加を決めやすくなります。
条件はまず、タームシート(主な条件をまとめた合意書)で話し合います。その後、正式な投資契約や株主間契約を結びます。よく出てくる条件は次のとおりです。
- 優先株式:普通の株より有利な権利がついた株です。会社を売却・清算したとき、先にお金を受け取れる権利(残余財産の優先分配)などがつきます。
- 希薄化防止の条項:次の出資で株価が下がったとき、既存の投資家の持株比率を守るための調整です。
- 取締役の派遣:投資家が取締役を出し、経営に関わる取り決めです。
- 事前の承認事項:大きな借入や新しい株の発行などに、投資家の同意を必要とする取り決めです。
特に「事前の承認事項」は、後の融資やベンチャーデットにも関わります。借入に投資家の同意が必要になる場合があるため、出資の契約を結ぶ前に、将来の借入の計画も伝えておくと進めやすくなります。契約の内容は会社の将来を左右するため、スタートアップに詳しい弁護士などの専門家に確認してください。
ベンチャーデットは、出資とどう組み合わせる?
ベンチャーデットとは、VCから出資を受けた会社を対象にした融資です。金額は1,000万〜1億円程度、金利は年5〜15%程度が目安で、あわせて新株予約権(あとで決まった値段で株を買える権利)を貸し手に渡すことが多い方法です。
使い方としては、次のような場面が考えられます。
- ランウェイを延ばす:出資で集めたお金に上乗せし、次の調達までの期間に余裕を持たせます。
- 次の出資の株価を上げる準備:もう少し実績を積んでから出資を受けたいときに、時間を買う手段になります。
- 持株比率の低下を抑える:新株予約権は渡しますが、同じ金額を出資で集めるより、渡す株は少なく済むことが一般的です。
一方で、返済が必要な借入であることは変わりません。赤字の会社では、返済の元手は手元資金と次の出資です。次の調達がうまくいかなかった場合に返済できるかを、厳しめに見積もってから判断しましょう。また、契約に財務の条件(一定の手元資金を保つなど)がつくことがあります。条件を満たせないと一括返済を求められる場合もあるため、内容をよく確認してください。
継続課金の売上は、資金調達に使える?
月額課金のサービスなど、毎月決まった売上が入る事業では、将来の入金を担保にした資金調達を検討できます。目安は継続課金の月商の6〜18か月分程度で、株を渡さずに資金を得られる点が特徴です。
この方法が向いているのは、次のような会社です。
- 解約が少なく、毎月の売上が安定して積み上がっている
- 顧客との契約が長く、入金の見通しが立てやすい
- 出資による持株比率の低下を、できるだけ抑えたい
反対に、解約が多い事業や、売上の大半が一度きりの販売である事業には向きません。また、担保にした入金の扱いについて、ほかの借入や出資の契約と矛盾がないか確認が必要です。
このほか、企業向けの売掛金がある場合はファクタリングで売掛金の70〜95%程度を早めに資金化することもできます。ただし手数料は2社間で5〜20%程度かかるため、成長のための資金ではなく、一時的な入金のズレを埋める手段として位置づけましょう。
公的な融資や補助金は、まだ使える?
シリーズAに進んでも、公的な資金は選択肢に残ります。日本政策金融公庫の新規開業・スタートアップ支援資金は、事業開始後おおむね7年以内の会社が対象で、融資限度額は7,200万円(うち運転資金4,800万円)です。出資を受けて自己資本が厚くなると、融資の審査で評価されやすくなることがあります。
制度融資では信用保証協会の保証を使えます。保証の上限は一般保証で2億8,000万円(普通保証2億円+無担保保証8,000万円)ですが、実際の額は会社の財務や返済の見通しで決まります。
補助金は、研究開発や設備投資に使えるものがあります。研究開発型のスタートアップには、国の研究開発支援制度もあります。いずれも原則後払いで、受け取りまで4か月〜1年ほどかかるため、出資や融資で先に支払える計画が必要です。
出資・ベンチャーデット・公的融資・補助金を組み合わせると、株を渡しすぎずに必要な資金を集めやすくなります。全体の設計は資金調達計画の立て方も参考にしてください。
シリーズAの準備は、いつから始めればいい?
シリーズAの出資は、準備から入金まで3〜6か月かかるのが目安です。投資家との面談を重ね、リード投資家が決まり、条件の交渉、会社の中身の調査(デューデリジェンス)、契約と進むためです。手元のお金が尽きそうになってから動くと、条件の交渉で不利になりやすくなります。
準備は、次の順番で進めると無理が少なくなります。
- ランウェイを確認する:手元のお金があと何か月持つかを計算し、調達にかかる期間を差し引いて、始める時期を決めます。
- 数字をそろえる:売上・顧客数・継続率などの推移を、同じ定義で月ごとにまとめます。
- 資金の使い道と目標を決める:集めたお金を何に使い、次の調達までに何を達成するかを書き出します。
- 資料を整える:会社の説明資料、事業計画、資本政策表、これまでの契約書を準備します。
- 投資家と話し始める:既存の投資家に相談し、紹介を受けながら面談を進めます。
調査では、登記や契約書、会計の処理などが細かく確認されます。シードのときに結んだ契約やJ-KISSの書類がすぐに出せるよう、早めに整理しておきましょう。
準備しておきたい書類・数字
- 月ごとの売上・顧客数・継続率の推移
- 顧客1人あたりの獲得費用と売上の関係が分かる資料
- 今後1〜2年の事業計画と資金の使い道
- 資本政策表(今回の調達後とストックオプションを含む)
- 既存の投資契約・株主間契約・新株予約権の契約書
- 直近の決算書と月次の試算表
- 月ごとの資金繰り表とランウェイの試算
売上の規模が大きくなり、組織や拠点を広げる段階に入ったらシリーズB以降です。出資一本に頼らず、銀行融資や設備のリースなど、負債を組み合わせる設計に見直していきましょう。
よくある質問
シリーズAでは、どれくらいの金額を集めるのが一般的ですか?
ベンチャーデットは、どんな会社が使えますか?
優先株式で出資を受けると、創業者に不利になりますか?
出資を受けたあとに借入をするとき、投資家の同意は必要ですか?
- 日本政策金融公庫「新規開業・スタートアップ支援資金」
- 全国信用保証協会連合会 信用保証制度の概要
- 中小企業庁「中小企業白書」
- 経済産業省「スタートアップ育成5か年計画」
本ページは一般的な情報提供です。金額・条件は目安で、実際は各金融機関・事業者の審査で決まります。法律・税務は専門家にご確認ください。