売上がない段階のお金は、どこから集めるのが現実的?
プレシード期とは、事業の構想を固め、会社を作る前後の段階を指します。売上はまだないか、ごくわずかです。この時期に使えるお金の出どころは、大きく分けて次の4つです。
- 自己資金:自分の貯金など。融資の審査でも「どれだけ自分で用意したか」が見られます。
- 公的な創業融資:日本政策金融公庫や制度融資。返済は必要ですが、株を渡さずに済みます。
- エンジェルからの出資:個人投資家や知人から、株やそれに近い権利と引き換えにお金を受け取ります。返済はいりません。
- 補助金・助成金:返済不要ですが、原則として使ったあとに受け取る後払いです。
どれか1つに絞る必要はありません。たとえば「自己資金と公庫の融資で最初の試作品を作り、手応えが見えたらエンジェルから出資を受ける」という組み合わせは、よく考えられる流れです。大切なのは、何にいくら使うのかを先に決めることです。開発費、人件費、広告費、生活費のうち、事業のお金として扱うものを分けて書き出すと、必要な金額と向いている手段が見えてきます。
生活費と事業のお金が同じ口座で混ざっていると、審査でも投資家との話でも説明が難しくなります。創業前から事業用の口座を分けておくと、後の手続きが楽になります。
共同創業者がいる場合は、お金を出す前に役割と持ち分を話し合っておきましょう。誰がいくら出し、誰がどれだけ株を持つのか。途中で抜けた人の株をどう扱うのか。こうした取り決めがないまま進むと、後から出資を受けるときに投資家から確認を求められ、調達が止まる原因になることがあります。
売上ゼロでも、公庫の創業融資は受けられる?
日本政策金融公庫の新規開業・スタートアップ支援資金は、これから事業を始める人や、始めてから間もない人を対象にした融資です。融資限度額は7,200万円(うち運転資金4,800万円)ですが、これは上限です。創業期の実際の融資額は、一般的に数百万〜1,500万円程度が多く、自己資金や事業計画の内容で変わります。
売上の実績がない分、審査では次の点が見られやすくなります。
- 自己資金:少しずつでも計画的に貯めてきたか。通帳の動きで確認されることがあります。
- 経験:その業界や職種での経験があるか。なぜ自分がこの事業をやれるのかを説明できるか。
- 事業計画:売上の見込みに根拠があるか。誰に、いくらで、どれだけ売るのかを数字で示せるか。
- 資金の使い道:設備や運転資金の見積もりが具体的か。
申し込みから決定までは、平均で3週間程度からが目安です。開業の時期から逆算して、早めに準備を始めましょう。都道府県や市区町村の制度融資も、創業者向けの枠を用意していることが多く、地域によっては利子や保証料の補助があります。公庫と制度融資は、条件を並べて比べてから決めると安心です。詳しくは公庫の創業融資の解説も参考にしてください。
事業計画書で伝えたいこと
売上の実績がない分、事業計画書が判断の中心になります。「市場が大きい」と書くより、「最初の10社にどう声をかけるか」のように、最初の顧客をどう得るかを具体的に書くほうが伝わりやすくなります。数字は楽観的な見込みだけでなく、売上が予定より遅れた場合でも返済できるかを示しておくと、説明に説得力が出ます。
エンジェルやJ-KISSで出資を受けるとき、何に気をつける?
プレシード期の出資でよく使われるのがJ-KISSです。J-KISSは新株予約権(あとで株を受け取れる権利)の一種で、その場で株価を決めず、次に本格的な出資を受けるときに株に切り替わるしくみです。売上がない段階では会社の値段(バリュエーション)を決めにくいため、交渉の手間を減らせます。
J-KISSでは、主に次の条件を決めます。
- 上限の評価額(バリュエーションキャップ):次の調達で株価がどれだけ高くなっても、この評価額を上限として株に切り替える、という約束です。
- 割引率:次の調達の株価から一定の割合を割り引いて株に切り替える条件です。早く出資したリスクへの見返りです。
ここで知っておきたいのが希薄化です。希薄化とは、新しく株を発行することで、創業者の持株比率(会社の持ち分の割合)が下がることです。最初の出資で株を多く渡しすぎると、その後の調達のたびに比率が下がり、経営の自由度が小さくなります。一度渡した株は、原則として簡単には戻せません。
そのため、出資を受ける前に資本政策(誰に、いつ、どれだけ株を渡すかの計画)を簡単でもよいので作っておきましょう。共同創業者の持株比率や、将来の社員向けストックオプション(決まった値段で株を買える権利)の枠も、この段階で考えておくと後で揉めにくくなります。契約書の中身や税務の扱いは、弁護士や税理士などの専門家に確認してください。
補助金は、創業前後の資金計画に組み込める?
補助金・助成金は、国や自治体が政策目的に合う事業を支援するお金です。返済はいりませんが、注意したい点がいくつかあります。
- 原則後払い:事業を実施してお金を払ったあと、報告を経てから受け取ります。支払いの時点では、自分でお金を用意する必要があります。
- 補助率:一般的に投資額の1/2〜2/3程度で、上限は制度によって異なります。全額が出るわけではありません。
- 時間がかかる:公募から採択、実施、受け取りまで、4か月〜1年ほどかかることがあります。
- 対象経費が決まっている:交付決定前に払った費用は対象外になることが一般的です。
このため、補助金は「すぐに使える資金」ではなく、融資や自己資金で先に払い、あとから一部が戻ってくるお金として計画に組み込むのが現実的です。補助金の受け取りまでの間をつなぐために、公庫や制度融資を併用する考え方もあります。研究開発型のスタートアップ向けには、国の研究開発支援制度もあります。募集の時期や要件は年度ごとに変わるため、公募要領で最新の情報を確認してください。
どの順番で準備を進めればいい?
プレシード期は、やることが多く手が回りません。資金調達については、次の順番で進めると無理が少なくなります。
- 必要な金額を出す:最初の1年で何にいくら使うかを書き出し、手元のお金で何か月持つか(ランウェイ)を計算します。必要運転資金の計算も使えます。
- 自己資金を整える:事業用の口座を作り、自己資金の出どころを説明できるようにします。
- 事業計画を作る:誰の、どんな困りごとを、いくらで解決するのか。売上と費用の見込みを数字にします。
- 公的融資を比べる:公庫と制度融資の条件を確認し、開業時期から逆算して申し込みます。
- 出資を検討する:資本政策を作ってから、エンジェルやJ-KISSでの出資を相談します。
- 補助金を探す:使える制度があれば、後払いを前提に計画へ入れます。
全体の組み立てに迷ったら、資金調達計画の立て方も参考にしてください。
準備しておきたい書類・数字
- 事業計画書(誰に・何を・いくらで売るか)
- 最初の1年の資金の使い道と見積書
- 自己資金の額と、貯めてきた経緯が分かる通帳
- 経歴書(業界での経験・実績)
- 簡単な資本政策表(持株比率の計画)
- 創業前後の月ごとの資金繰り表
- 会社設立の書類(登記事項証明書・定款など)
最初の顧客がつき、プロダクトの手応えが見えてきたらシード期です。J-KISSの切り替え条件と資本政策を見直し、次の出資でどれだけの株を渡すかを改めて計算しておきましょう。
よくある質問
会社を作る前でも、公庫の融資は申し込めますか?
自己資金はいくらあれば足りますか?
J-KISSと普通株での出資は、どちらがいいですか?
知人から出資を受けるとき、注意することはありますか?
- 日本政策金融公庫「新規開業・スタートアップ支援資金」
- 中小企業庁「中小企業白書」
- 中小企業庁・中小企業基盤整備機構 補助金関連の公募要領
- 経済産業省「スタートアップ育成5か年計画」
本ページは一般的な情報提供です。金額・条件は目安で、実際は各金融機関・事業者の審査で決まります。法律・税務は専門家にご確認ください。